記事・コラム

記事・コラム

連載-15- なるほどこれでなっとく!「著作権」 演劇とパフォーマンス

スペイン知的財産事情

この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。

連載-15- なるほどこれでなっとく!「著作権」 演劇とパフォーマンス

No.262 Diciembre 2008

演劇は人類史の初期からある最も古い芸術表現方法で、俳優がストーリーなどをその場にいる観客に対して演技するもの。演劇も映画のような総合芸術で、著作権や著作者人格権は原作・脚本・振付・音楽・舞台美術・衣装デザイン・メイクに、また実演権は演出・出演者・音楽など、他にも意匠権や商標権など様々な権利が関わります。

日本では、高校演劇全国大会で上演された創作劇が優秀賞作品として高い評価を得たものの、実はある劇団のいくつかの作品の設定、展開、キャラクター、振付に共通点があり、著作権を侵害していることが分かったという例がありました。また著作権法には非営利目的での上演、演奏、上映等には著作権者の許諾を得る必要が無いとありますが、具体的には営利を目的とせず、観客から料金を取らず、出演者にも報酬が支払われてはなりません。しかしスペインでは、このような上演に対しても制作費の10%を請求する著作権管理団体があり、支払わなければ裁判に訴えられ、多くのアマチュアや演劇を勉強する人たちなどがこの行為に反対しています。

一方よく勘違いしやすいのは、原作が『ドン・キホーテ』のように著作権が切れている物でも脚本の著作権は別にある場合です。ですから作品を選んだらまず管理団体に条件を問い合わせ、もしもこのような団体に登録されていない場合は、著者と直接コンタクトして、事前許可を得ましょう。合わせて劇中に流す音楽についても著作権の確認をすることをお勧めします。

スペインの知的財産権の法律では、演劇・ミュージカル・振付・パントマイムそして劇作品全般を保護していますが、パフォーマンスについては特に明記されていません。したがってパフォーマンスを保護するにはこれらのいずれかの分類で行わなくてはならず、問題が生じます。

パフォーマンスとは1960年代に始まった美術・視覚芸術の一分野で、時間・場所・パフォーマーの体・観客との関係の4つを基本要素とした表現方法です。

先日スペインで公演を行った『山海塾』のように、全身白塗りで表現する『舞踏』は日本独自のパフォーマンス。代表的なアーティストは2006年に100歳になられてなお踊りつづける大野一雄。彼は1929年スペインの舞姫、ラ・アルヘンチーナ(1890~1936)の来日公演を見て感動し、半世紀を経て彼女を讃える作品『ラ・アルヘンチーナ頌(しょう)』を上演。土方巽(ひじかた・たつみ)演出のこのソロ作品は世界で大きな衝撃をもって受け入れられ、1994年まで世界各地で119回の公演を重ね、そして『舞踏』は、『BUTOH』として世界中に広く知られるようになりました。多くの『舞踏』は即興が大切で、アイデアは事実を考えず感じることでした。そんな舞踏はどのように分類できるのでしょうか。パフォーマンス・ダンス・それとも演劇?このような表現はヨーロッパでもとても好評で、ヨーロッパの芸術家たちによって脚色もされました。しかしどこまでがインスピレーションで、何がコピーでしょう?答えはとても難しく、具体的には一つずつ境がどこにあるか、どのように著作権を守るか検討しなくてはなりません。

時にはパフォーマンスが絵画・ビデオ・彫刻・演劇・音楽などに関連することがあります。したがって著作権を一括して管理団体に保護してもらうことは難しく、パフォ-マンスアーティストたちが集まってインターネットでデータベースを作り、そのパフォーマンスアートが、どのような人が演じるものか、上演時間や使用する道具などを明確にし、誰が作者であるかを明確にしています。これらは新たな芸術や伝統芸の分類に入れることができないため、結果としてこのような困難が逆に作品にオリジナリティーを要求し、新たな技術をもたらすことにもなります。

芸術の秋。各地で様々なフェスティバルが開催されていて、アーティストの生の演技を満喫する良い機会。ぜひお出かけ下さい。