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連載-16- なるほどこれでなっとく!「著作権」 電子出版物

スペイン知的財産事情

この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。

連載-16- なるほどこれでなっとく!「著作権」 電子出版物

No.263 Enero 2009

電子出版物とは、従来のインクを使った印刷物ではなく、パソコン・携帯電話・携帯情報端末などで読むことができる電子化された出版物です。

書籍よりも先にポピュラーになった電子出版物は電子辞書。小さな1台で複数言語の辞書に医学辞典なども入るという情報量の多さと検索のしやすさ、携帯性は旅先でも大変便利なもの。知らない言語も音声出力すれば、通訳として活用できます。ハード面でも改良が進み、今日では写真や絵をカラーで見る、ページを指で送ることも可能になり、より可能性を拡げています。日本では利用できるハードの種類も増え、電車の中で電子出版の小説やマンガを読む人たちがとても増えました。

このような電子出版物の著作権は一般的には著者にありますが、契約によってはその作品の印刷物の出版社にあるケースもあります。原作の著作権が切れていても翻訳本の場合の著作権、また原作がアニメの場合、そのキャラクターの版権も見逃せません。電子化のために紙媒体をスキャンする場合、紙媒体のレイアウトの権利(版面権)というもう一つの権利があることも考慮すべきです。近年主流になっている印刷用に用意したDTPデータを、電子書籍用のデータに変換し電子化する方法でこの問題は避けられます。一方コンテンツの課金方法の整備は2000年代になって改良されてきましたが、いまだに複雑で新作の電子出版化を難しくしています。

今日世界のあちこちで図書館、大学などが所蔵する版権フリー作品の電子化を進めています。これらの多くはサイトを通じて利用者登録をすれば自由にダウンロードできます。また日本の「青空文庫」のような民間の電子図書館計画も盛んです。インターネットの普及はこのような電子出版によって古典作品、稀少本や絶版になった本などを、世界中から多くの人が利用し、文化を分かち合う仕組みを作り出しました。

電子出版の新たな利用方法も増えています。例えば作家が自分のブログで作品を紹介して読者の感想を募ったり、中には読者の要望を取り入れて登場人物やストーリーを変更していくというのは電子出版ならでは。無名の作家が廉価で自分の作品をインターネット上で販売したり、http://www.bubok.comのように無料で作品公開ができるサイトもあります。一方出版社が本の初めの部分や解説をインターネットで公開し、印刷された出版物の販売プロモーションに使うこともあります。しかしながらこのような手軽さは問題も起こしています。「書籍検索サービス」は電子化された書籍の中を検索したり、PDFとしてダウンロードできるサービスで、タイトルや作者名が分からなくても内容で検索できる利便性が特徴ですが、一定の条件下において著作権所有者の許可がなくても素材を複製・配布できる「公正使用の原則」を主張する企業と、著作権侵害の疑いで訴える著者・出版社団体の間で係争が起きています。またある作家たちは著書をインターネットで公開し、読者は自由にダウンロードしていたのですが、時間が経つとともに作品に人気が出てきたので、ある日突然ダウンロードを有料にし、中には無料の期間にダウンロードした作品の利用方法について作者が読者を訴えるケースも出てきました。当然のことながらこのような行為には反対意見が多く、問題視されています。

最後に電子出版の影響について特筆すべき例を挙げましょう。1つは電子出版による学校教育。従来の黒板とチョークに代わって、今日ではタッチパネルの画面を使用し、版権フリーの作品に音や音楽、映像を組み合わせた教材が使われるようになってきました。印刷物の教材はまだ多いですが、今後はより新たな工夫が必要でしょう。もう1つは電子出版が新たな芸術表現方法を生み出した例です。MIDIPoetのような新たなソフトウェアの開発によって行う、詩と映像を合わせた映像詩という表現方法があります。このような新たな表現方法はどんどん増え、より人々を楽しませてくれることでしょう。