ゲームの特許調査で注意すべき4つのポイント【ゲーム分野の担当サーチャーが解説】
ゲーム関連特許の調査にあたって
近年、ゲーム業界では主要メーカーによる積極的な特許出願が続いており、それに伴って大手メーカー同士の特許侵害訴訟や、人気タイトルの配信停止・仕様変更を巡る大規模な知財紛争が話題になることも珍しくなくなりました。
特にこの傾向を加速させているのが、「ゲームビジネス構造の変化」です。かつて中心だった家庭用ゲームやアーケードゲームでは、グラフィック処理や操作性などに関する技術が重要な位置を占めていました。それに加えて、近年のオンラインゲーム・ソーシャルゲーム・運営型ゲームの台頭により、ガチャやアイテム合成などのゲームシステム、通信処理、マネタイズに関わる仕組みなど、幅広い領域で特許出願が行われています。
その結果、ゲーム画面から目に見える機能だけでなく、目に見えないサーバー側の処理やビジネスモデル(課金・運営に関わる仕組みなど)にまで広範な特許網が張り巡らされるようになり、自社のゲームが他社の権利を侵していないか確かめる「侵害予防調査(FTO調査)」の重要性が高まるとともに、調査対象も複雑化しています。
一見するとゲーム専用の分類コードやキーワードで簡単に検索できそうに思えますが、実はゲーム分野の特許調査には一筋縄ではいかない構造的な理由が存在します。
今回は、現場と知財担当者を悩ませる下記の「4つの壁」について詳しく解説します。
- 壁1: 調査ポイント把握の難しさ(どの特徴・要素を重視して調査すべきか)
- 壁2: 抽象化(言い換え)の難しさ(定着したゲーム用語をどう特許用語へ翻訳するか)
- 壁3: 専用特許分類の限界(ゲーム関連特許分類 A63F 13/00の限界)
- 壁4: 他分野技術との関連(多角的な複合技術ゆえに他分野での調査の必要性)
【壁1】調査したい機能のうち「どの特徴(要素)を重視して調査すべきか」の把握が難しい
調査をスタートする前の「前提」として立ちはだかるのが、自社機能の分析と調査ポイントの選定です。
特許調査ではどのような要素・構成・特徴点を調査対象とするのかを整理しなければ始められません。
ゲーム分野では調査ポイントを把握する上で下記のような難しさがあります。
(1)要素が密接に絡み合っており切り出しにくい
ゲームの機能は、画面上のグラフィックやUI操作、裏側のパラメータ計算、サーバーとの同期処理、演出効果など、非常に多くの要素が複雑に組み合わさって1つの仕様・機能を構成しています。そのため、「一連の処理の中で、特許的にどの要素がコア(技術的特徴や解決すべき課題)なのか」を特定することが容易ではありません。
(2)目に見える表面的な機能に囚われるリスク
特に注意が必要なのが、画面上で目に見える具体的な機能や演出だけに目が行ってしまうと、真に調査すべき重要な観点を見逃してしまうという点です。
(3)調査軸(重視すべき要素)の判断の難しさ
例えば、「特定のボタンを押すと特殊なカメラ演出とともに攻撃がヒットする」という機能があった場合、目に見える「画面上のエフェクトやカメラワーク」といった画像処理関連を重視して調べるべきか、それとも目に見えない裏側の「操作の割り当て処理」や「ダメージの計算ロジック」といったデータ処理関連を重視するのかで、調査内容はがらりと変わります。
それ以外でも、「特定のボタンを押す」というインプット側に特徴があるのか、「特殊なカメラ演出を行う」というアウトプット側に特徴があるのかというように、重視すべき観点は場面ごとに様々です。
どの要素を主軸として調査すべきかの判断を誤ると、注意すべき他社特許を見落とすリスクに直結します。
壁1への対策
目に見える機能や演出だけに惑わされず、企画・開発の早い段階から知財担当者と現場(エンジニア・ディレクター)が密に連携し、「この仕様の本質的な技術的工夫(技術的コア)はどこにあるのか」を多角的に分析・整理することが重要となります。
【壁2】調査したい具体的な機能の「抽象化(特許用語への言い換え)」が難しい
2つ目の壁は、ゲーム開発の現場や業界全体で使われる言葉と、特許の世界で使われる言葉との間に存在する決定的なギャップです。
(1)ゲーム分野で一般的に用いられるゲーム用語であっても、特許ではそのまま使われない
例えば「コマンドバトル」「ガード」「当たり判定」「ミニマップ」「ガチャ」といった、ゲーム分野で広く一般化し定着している標準的なゲーム用語であっても、特許公報(特に請求項)ではそのまま使われず、より抽象的な表現に言い換えられることがあります。
特許公報では、発明をより一般化して表現するため、ゲーム固有の用語をそのまま用いるのではなく、それらを上位概念化した抽象的・汎用的な情報処理用語で記載されることが多くあります。
(2)作品ごとに固有の「ゲーム内用語(独自呼称)」が存在する
さらにゲーム分野特有の課題として、作品の世界観に合わせて同一機能に独自の名称がつけられる点があげられます。
例えば、他ゲームで言う「ガチャ」が、ある作品では「召喚」「契約」「錬成」「祈願」などと表現されます。開発時の思考がこうした作品固有の名称に引っ張られてしまうと、適切な検索キーワードの発想を阻害する原因となります。
(3)どのような一般キーワードへ「抽象化」するかにコツ(ノウハウ)を要する
調査にあたっては、作品固有の機能や定着したゲーム用語を「どのような情報処理的な機能・概念に落とし込んで言い換えるべきか」という、適切に抽象化するためのノウハウやコツを要します。
ここでは、単語を機械的に置き換えるのではなく、「この機能の本質はデータ変更なのか、画面演出なのか、制御論理なのか」を見極めて汎用的な表現へと言い換える必要があります。
「壁1」で解説した「機能の技術的なコア(本質)を正しく把握・選定しておくこと」は、まさにこの適切な抽象化・キーワード選定を行う上でも極めて重要な前提となります。
(4)さらに立ちはだかる「特許特有の表現」の壁
抽象化したキーワードを導き出したとしても、特許公報では「制御部」「選択手段」「特定領域」「所定のパラメータ」といった、回りくどい包括表現が多用されています。
特にゲーム分野においては、いわゆる「スタミナ」やゲーム内キャラクターの「ステータス」、ガチャなどの「抽選確率」といった要素が、特許公報では「第1の変数」「所定のパラメータ」などの抽象的な表現で記載される場合があります。
これは特許検索をするための母集団形成(検索式検討)だけではなく、実際に読み込み調査を行う際にも問題となります。請求項に記載された「第1の変数」が一体何に該当するのかを正確に把握するためには、ゲーム関連技術に関する理解と特許関連の知識の両方が必要となります。
出願人や特許公報によって表現が異なることも多いため、「自社のこの機能は、特許の世界では一体どのような言葉の組み合わせで表現され得るか」という多数のバリエーションを想定・網羅してキーワードを設定しなければならず、ここが調査における極めて大きな難所となります。
壁2への対策
現場で使われるゲーム用語に縛られず、機能の本質に立ち返って「特許明細書で使われ得る抽象的・汎用的な表現や上位概念」を想定し、網羅的な類語・同義語辞書(キーワード群)を構築して検索に臨むことが求められます。
このような特許独特の言い換え知識を身につけるためには、日頃から同業他社の特許公報を読み込むことが非常に効果的です。継続して特許表現に触れておくことで、自社の機能から「特許に用いられる適切な抽象化キーワード」をスムーズに連想・蓄積できるようになります。
【壁3】ゲームの特許分類のみでは対応できないことが多い
3つ目の壁は、特許調査の要となる「公式な特許分類(IPC・FI・Fターム)」だけに頼った調査では不十分な場合が多い点です。
本来、特許調査において特許分類は非常に強力な助けとなります。キーワード検索だけでは網羅しきれない「概念」をカバーし、特に技術内容が詳細に細分化されている分野であれば、適切な分類コードを絞り込むだけでノイズを劇的に減らし、スムーズかつ高精度な検索式を設計できるのが特許分類の最大のメリットです。
しかし、ゲーム分野では下記のような問題があります。
(1)ゲーム専用分類だけでは個別の機能を十分に絞り込めない場合がある
国際的なIPC分類や日本のFIにおいて、ゲーム技術は主に A63F 13/00(ビデオゲーム)やその下位分類(13/20:入力装置、13/30:ゲームサーバとゲーム装置等の相互接続など)に整理されています。
過去の制度改正によって分類の拡充や細分化は進められてきました。一方、日進月歩で進化・複雑化する現代のゲーム技術では、個別のゲーム仕様や複数技術を組み合わせた機能について、ゲーム専用の特許分類だけでは十分に絞り込めない場合があります。
その典型例が、近年ゲーム市場で広く見られるソーシャルゲーム(基本無料・運営型)の各種機能です。「ガチャの確率変動制御」「アイテムの合成・育成ロジック」「サーバー側でのデータ管理・処理」「各種マネタイズシステム」などについては、複数の技術要素が組み合わされていることも多く、ゲーム専用の特許分類だけでは個別の仕様を的確に絞り込むことが難しい場合があります。
また、対応するFタームのテーマコードとして2C001がありますが、現在の多様化・複雑化したゲーム機能を細かく切り分けて検索するには限界があります。
(2)最新の技術トレンドはゲーム専用分類だけでは捉えにくい
さらに、メタバース、VR/ARにおける空間認識、Web3/ブロックチェーンゲーム、生成AIを用いたNPCの動作制御など、近年のトレンド技術を用いたゲーム機能も、ゲーム関連分類だけでは、その技術内容を十分に捉えにくい場合があります。
そのため、これらの最新機能については、A63F 13/00などのゲーム関連分類だけでは十分に絞り込めず、キーワードを組み合わせた検索が重要になります。
壁3への対策
特許分類だけでは絞り切れない以上、キーワードでの限定が不可欠となります。機能をよく理解し、適切なキーワードを選定する必要があります。
また、「ゲームに関する技術だから A63F 13/00 だけ見れば大丈夫」という固定観念を捨て、柔軟な調査設計を行うことが重要となります。
次の壁4で説明しますが、他分野に関連する特許分類もしっかりと検討し、調査漏れを抑えるための調査設計が重要です。
【壁4】多角的な複合技術ゆえに「他分野の特許分類」へ分散している
4つ目の壁は、現代のゲームが多様な先端IT技術の集合体であることに起因する、調査範囲の膨大さです。
(1)ゲームは多様な技術の複合体
現代のゲームは、単なる「画面上の遊び」にとどまらず、高度なUI、グラフィック処理、AI制御、データベース管理、ネットワーク通信、決済システムなどが複雑に絡み合った高度なITシステムです。そのため、ゲーム機能であっても「ゲーム以外の技術分野」の特許が密接に関連してきます。
(2)ゲーム関連の特許分類(A63F)が付与されない特許もある
発明の内容がゲーム用途に限定されず、汎用的な情報処理技術として記載されている場合には、A63Fではなく、一般的な情報処理・画像処理・通信などの特許分類が付与されることがあります。
そのため、ゲームでの利用が想定される技術であっても、ゲーム関連の特許分類が付与されていない場合があり、A63Fだけを対象とした検索では重要な特許を見落とすおそれがあります。
(3)検討が必要となる主な他分野分類(関連技術の広がり)
ゲーム関連技術と関係する主な技術分野として、例えば以下が挙げられます。
これらはゲームにおいても重要な構成要素であり、ゲーム関連技術の特許にも付与されることがあるため、調査時にはこれらの特許分類も検討対象となります。
- G06F(電気的デジタルデータ処理全般) / G06N(特定計算モデル・AI・機械学習) タッチ・フリック操作等のUI制御、データベース管理に加え、NPCの動作アルゴリズムやプレイヤーの挙動予測に用いるAI・機械学習技術など
- G06T(画像処理・3次元グラフィック) / G06V(画像・パターン認識) 3Dモデルのアニメーション、カメラ制御に加え、ARゲーム等の空間・物体認識やフェイストラッキング技術など
- G06Q(管理・商用・金融等に特に適合した情報通信技術) 決済・課金、広告、電子商取引など、ゲームに関連する商用・管理目的の情報処理など
- H04L(電気通信技術・ネットワーク) / H04W(移動体・無線通信技術) リアルタイム対戦における通信同期処理、サーバーの負荷分散ロジックに加え、位置情報ゲーム等におけるモバイル通信制御など
(4)「調査漏れ」と「ノイズ爆発」のジレンマ
このように他分野の分類まで視野を広げて調査を設計する必要がありますが、これらの関連特許分類を無制限に検索対象へ含めると、ビジネスソフト、スマホ基本OS、自動運転、家電の操作画面といったゲームとは全く無関係な膨大な特許までヒットしてしまいます。
壁4への対策
「見落としを防ぐために他分野分類へ広げたいが、広げるとノイズに埋もれる」というジレンマを解消するためには、漠然と全体を調べるのではなく、「壁1」で整理したように調査対象機能の技術要点(コアとなる課題や処理)を正しく把握し、狙うべき調査ポイントを的確に絞り込むことが極めて重要な意味を持ちます。
関連するIT分野の分類(G分野・H分野等)まで視野を広げたうえで、「広げた分類」と「壁1で絞り込んだ技術要点(キーワード)」を適切に掛け合わせた検索式を構築し、網羅性と検索精度の両立を図る必要があります。
おわりに
ゲーム業界で特許出願が活発化し、知財紛争の話題が絶えない現在、特許調査で重要な他社特許を見落とすと、他社特許との抵触リスクを事前に把握できず、結果として機能の差止めや損害賠償請求などの重大な事業リスクにつながる可能性があります。このリスクを防ぎ、戦略的な知財活動を進めていくためには、精度の高い特許調査が不可欠です。
自社のゲームを安心して開発・提供するためにも、今回解説したゲーム特有の「4つの壁(注意点)」を深く理解した上での的確な調査設計が極めて重要となります。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・I)
