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連載-9- なるほどこれでなっとく!「著作権」建築

スペイン知的財産事情

この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。

連載-9- なるほどこれでなっとく!「著作権」建築

No.256 Mayo 2008

スペインを代表する現代建築家は、メリダの国立ローマ古代博物館やプラド美術館新館などをデザインし、1996年には建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞したホセ・ラファエル・モネオ。またTGVリヨン駅、バレンシア芸術科学都市をデザインしたサンティアゴ・カラトラヴァや、横浜港国際旅客ターミナル、愛知万博のスペイン政府館をデザインしたアレハンドロ・ザエラ・ボロなど。他にもたくさんの建築家たちが世界で活躍し、今スペインは注目を集めています。一方世界で最も著名な日本の現代建築家は、95年プリツカー賞を受賞した安藤忠雄で、表参道ヒルズや92年のセビーリャ万博の日本政府館は彼の作品。また同年開催されたバルセロナ・オリンピックの会場となったパラウ・サンジョルディは磯崎新の作品。彼はその後もラ・コルーニャのドムス(人間科学館)、バルセロナのカイシャ・フォーラムなどすばらしい建築物をスペインで生み出しているが、今その最新作、ビルバオの複合施設イソザキ・アテアをめぐって前出のカラトラヴァ氏・ビルバオ市役所・磯崎新氏の間で裁判になっている。

問題は、磯崎氏のイソザキ・アテアの歩道とつなげるためにカラトラヴァ氏がデザインしたスビスリ橋から、ビルバオ市役所が許可を得ずに橋の手すりをなくしたことで、橋のデザインは対称的ではなくなり、本来の性質を変えたという理由でカラトラヴァ氏が市役所を訴えたもの。磯崎氏のスペインの事務所は、「連結のプロジェクトは彼らが勝手に作り上げたものではなく、従ってカラトラヴァ氏と市役所の問題だ」と表明。

カラトラヴァ氏は現代における橋梁(きょうりょう)デザイナーの最高峰の一人で、ニューヨークの近代美術館で『彫刻から建築へ』という個展を行ったこともあり、この橋はスペインの知的所有権法で守られる芸術作品であると考えています。具体的には著作権人格権の、同一性保持権の侵害に該当し、これは作品の変形・修正・合理的利益や声望を損なうと考えられる行為を禁ずるもので、些細なことでも変更されると、著作者が著作物に与えたいと思う意味に影響を与えることになりかねないので事前の許可が必要だ、という決まりです。氏は今回、損害賠償を要求するとともに、作品の手すりをデザインどおりにすること、そしてもしそれが実行できない場合には、より多くの損害賠償を請求しています。現在は判決待ちですが、これは建築が知的所有権法で守られていることを表す良い例です。

この場合の建築とは、独創的で、その形状が創造性を表現したものでなくてはなりません。従って建築基準に達しているだけの建物で、建築家の個性が見られない場合は該当しません。法律で守られるのは、プロジェクト、図面、模型、そして建築・工学作品のデザインです。建築物が含まれないのは、事前に上記の段階を踏まえずに建築を行うことは不可能で、建築物はプロジェクトの再生または派生物と考えられるためです。

この他にもベルン協定第二条により、スペイン政府はスペインにおける外国人建築家の建築物を保護する義務があります。例えば日本の建築家がスペインで建築した場合、手続き無しでその作品は著作権人格権と世襲財産法で保護されるということで、侵害された場合にも有効です。

人々を見とれさせる、驚嘆させる建物や建築作品こそが芸術作品と解釈される建築ですが、著作権によって保護されるべき作品かどうかという判断は実際には非常に難しいものです。しかしガウディのサグラダファミリアのように誰が見ても驚くような作品があることも事実です。このような建築を写真や映画の被写体にする、絵の題材にすることは著作権の侵害にはならず、またこれらの写真、絵、映画を販売したり広めることもできます。禁止されているのは、これらの写真などを元にこの建築に似通った作品を作る、派生させることです。

春風の中、建築を楽しむ散歩に出かけられてはいかがでしょう。