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連載-5- なるほどこれでなっとく!「著作権」アートと権利

スペイン知的財産事情

この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。

連載-5- なるほどこれでなっとく!「著作権」アートと権利

No.252 Enero 2008

世界は今空前の現代アートブーム。中でもアジアの現代アートは欧米で大人気。スペインでも日本人作家の、草間彌生さん・奈良美智(よしとも)さん・村上隆さんなどのトップアーティストをはじめ、数々の若手作家の作品があちこちで展示されています。2003年、ニューヨークのオークション会社サザビーズでは、村上隆さんのウェイトレス姿の等身大美少女フィギュア『Miss Ko2』が50万ドル(約5,800万円)で落札されました。これは当時の日本現代美術作品の最高額でした。このように現代アート作品を投資目的で買う人も増えているそうです。そこで今回はアートと権利についてご説明します。
1枚の絵を買ったとしましょう。この絵には著作権と作品の所有権という権利があります。買った人は所有権を得ます。具体的にはこの作品を展示・貸与・譲渡して収益を得ることができる権利です。しかしこの絵をポスターやカレンダーにするような著作権は作者の権利で、日本では特別にこの権利の譲渡契約を結ばない限り作者に帰属します。一方スペインでは作者には道徳権利があり、この権利を譲渡、売買することは絶対にできません。例えば日本人作家がスペインで個展をし、販売した作品に関して作者には以下のような権利が生じます。

●作者がその作品がどのように普及すべきかその方法を決める権利
これはその作品が作者の意思によって初めて展示されたときに生じる権利で、例えば作者がその作品を以後一切公衆の場で展示しないという判断をした場合、作者の生存中と死後70年間保護される権利です。

●作品の作者名の表記を、本名・ペンネーム・サイン・匿名など具体的に指定する権利
これは作者が作者名をどのように表記して欲しいか選べる権利です。

●作者がその作品の現状について知る権利
これは作品がどこにどのようにして保管または展示されているかを知る権利で、作者の生存中は作者が、以後永遠にその遺族が知る権利を有します。

●作品のいかなる変形、変更、部分使用を禁じ、配慮ある対処を求める権利
この権利はスペインの裁判で多々争われますが、作品の所有者であっても作者に無断で写真を撮って作品を変形したり、部分的に印刷物やホームページなどに使ってはいけないということです。

●第三者が得た権利を尊重しながら必要と思われる作品の手直しをする権利
これは作者がアーティストとして進化した場合、その作品が文化財産として保護されている場合を除いて所有者の許可の元、手直しができる権利です。

●作者が知的または道徳的信条を変え、ある作品を市場から抹消したい場合、所有者に事前に賠償することにより作品を市場から抹消できる権利
別名「後悔の権利」。作者に正当かつ妥当な目的があればこの作品が展示されていることでプロの作家生命に影響を及ぼすという判断で、展示しないようにすることができる権利です。例えばその作品を作成した頃は当たり前でも、それが現在の道徳ではいけないことと判断されるような題材になった場合です。

●その作品が作者にとって唯一のまたは珍しい作風の作品であり、それが第三者の所有にある場合、作者がそれを見る権利
これは作者が希望すれば所有者の都合に合わせて決められた場所や方法で作品を見ることができるという権利です。しかしここで重要なのは作者が所有者にアンソロジーの展覧会を行うためにその作品の貸し出しを依頼したり、その展覧会のカタログにその作品を含むことができることです。
道徳権利の損害に対して、スペインの裁判では多額の賠償金の支払いが命じられることがあります。また作品の形状が油絵なのか、デジタル作品またはマルチメディア作品なのかによっても該当する権利は異なります。詳しく知りたい方はご相談ください。