連載-13- なるほどこれでなっとく!「著作権」 映画
スペイン知的財産事情
この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。
連載-13- なるほどこれでなっとく!「著作権」 映画
No.260 Octubre 2008
映画といえば、先日の『ベネチア国際映画祭』のコンペティション部門に北野武監督『アキレスと亀』、宮崎駿監督『崖の上のポニョ』、押井守監督『スカイ・クロラ』が選ばれ、『サン・セバスティアン国際映画祭』では是枝裕和監督『歩いても歩いても』がコンペティション部門に出品という、世界的な権威ある映画祭だけにうれしいニュースがありました。このような映画祭の授賞式の時に延々と続く受賞者たちを見てもわかるように、映画作りにはたくさんの分野のプロがかかわっており、有名な『黒澤組』のようにこれらの人々が一体になって、それぞれの歯車をうまくかみ合わせ、多くの人たちの心に残る作品ができます。このような総合芸術である映画ほど著作権と密着な関係にあるコンテンツはありません。
代表的な権利は映画の著作権。スペインでは作者の死後70年を経過するまでの間、一方日本ではその映画の公表後70年を経過するまでの間存続するという著作権法54条1項が、2004年1月1日から施行。この年、著作権保護期間が50年から70年になったことで、『1953年問題』と呼ばれた、53年に公開された作品は50年か70年かという問題が起きました。判決は50年。またこの頃から著作権の保護期間が切れた作品を『パブリックドメイン』と呼ぶようになりました。多くの場合、このような映画の著作権は映画の製作会社に帰属しますが、気を付けなくてはならないのは1本の映画には他にもさまざまな権利があるということです。
昨年末からのハリウッドにおける脚本家組合のストライキは、まだ皆さんの記憶に新しいことでしょう。これはDVD・インターネット・iPodなど映画を楽しむことができる方法が増えたことに伴い、権利の見直しを求めて行われたもので、ストライキ中ハリウッドが大混乱したことは、脚本が映画製作に大変重要であることを示しています。この他にも俳優やスタントマンによる演技に対する著作権、衣装や美術デザイン、特撮映像・特殊メイク・音楽、映像や音楽に使われた新たな技術、字幕など様々な権利があります。その権利の種類も幅広く、上映権・公衆送信権・頒布権・譲渡権・貸与権・翻訳権・二次的著作権・意匠権・商標権などなど。また映画のプロデューサーには視覚芸術の撮影物(編集前のフィルムや撮影中写真など)に対する排他的権利が帰属する場合もあります。
一方映画のプロモーション活動関係の権利も大切です。広告デザイン、テレビスポット広告、インタビューや、アイデンティティとなる映画タイトルのロゴも世界の人々の目に触れる大切な要素です。また、スーパーヒーローの登場人物やアニメ作品のキャラクターにはマーチャンダイジングの展開が行われることもあり、これも個別の権利です。
このように複雑な権利が絡み合う作品が2か国以上の共同作品であると、該当する国々の法律に従わなくてはならない場合があり、より複雑になります。
映画好きの人たちはしばしば、映画のあるシークエンスやショットが他の映画に似ている、原作の小説・漫画・ミュージカル・演劇などと内容が違うという議論をし、実際脚本の独創性に問題がある場合もあります。また勝新太郎主演の『座頭市』のリメイクであるビートたけし主演の『座頭市』のような場合は、原作と派生作品といった異なった権利があります。
これほどの人たちがかかわって作る映画界に、スペインで大変なことが起こりました。9月19日付Metro Directo紙によると、「スペインは世界で4番目にダウンロードを行っている国で、20本中18本の映画をダウンロードしている」とあります。そこでSEGAEをはじめとする著作権管理団体や主要映画会社20社とマイクロソフト社が行った上級裁判所への上告に対してマドリッド州裁判所の決定(582/2005)は、「P2Pからリンクしたウェブからコンテンツをダウンロードするのは不法ではない」。EUの考えに反するこの決定が今後様々な問題を引き起こすことが予想されます。この続きは近々リーガルスタジオのホームページでご説明します。