連載-11- なるほどこれでなっとく!「著作権」 造形芸術
スペイン知的財産事情
この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。
連載-11- なるほどこれでなっとく!「著作権」 造形芸術
No.258 Junio 2008
「すべてはまねから始まる」。芸術の世界ではよく使われる言葉。絵を習う時にうまい絵に似せて書くことによって、構図の取り方、配色や描き方の技術などを学ぶ模写は欠かせません。しかし出来上がった模写絵に自分のサインを入れると盗作になりますのでご用心。最近日本で起きた例では、2006年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した画家、和田義彦の作品がイタリア人画家、アルベルト・スギの盗作であったとして、授賞が取り消されたことが挙げられます。
一方金銭的・宗教的・権威付け・名誉または名声を貶めることなど他者を偽る意図をもって芸術品を模倣した作品は贋作(がんさく)です。2007年10月にロンドンクリスティーズのオークション寸前に出品予定の奈良美智(なら・よしとも)の作品が贋作と判ったという例がありますが、これらはあくまでも氷山の一角。
このようなことは古くは古代ギリシャ時代に著名な作家の作った彫刻のコピーを家に飾ることが社会ステータスの証だったことや、巨匠の許可の下、流派にのっとって弟子が書いた作品は、どちらがオリジナルかわからなくなるほどの出来栄えだったということなど、枚挙にいとまがありません。
最近ではネットオークションで贋作を販売するケースもあるようです。気軽に利用できる反面、本物か見分けるのは難しいもの。気を付けたいものです。
著作権としての初めての規制は、ニュルンベルク議会とベニス上院がアルブレヒト・デューラーに対して作者を特定するサインまたはモノグラム(普通は氏名の頭文字)のコピーを禁じたことです。一方スペインでは1847年に文学所有権法で造形芸術家が作家と同じような独自の権利を認められました。そして歴史の中でオリジナルと盗作の概念は変わってきたのです。
オリジナリティーとは画家または彫刻家の個性を現したものと理解されますが、一方オリジナルとは客観的なすべての斬新なものと解釈することもあり、この場合同じテーマで書かれた作品はオリジナルかどうかという問題が派生します。
オリジナルか盗作か明確なケースもありますが、中には裁判官の解釈次第という場合もあります。
造形芸術作家にとってのもうひとつの問題は、著作権の譲渡でしょう。多くの場合作家は、ギャラリーに作品の全権を依頼することにより、広告媒体におけるイメージの使用や、マーチャンダイジングを展開するといった複製権も失ってしまいます。このような場合、唯一できる守りの行動は、ギャラリー・美術館・財団などと作品について交わす契約書によるものです。作家の中には細かい条項によって著作権をうたう契約書は作品の販売に不利になると考える人がいますがそれは大きな間違いで、詳細をうたわないために金銭的だけではなく道徳的にも失うものが大きい場合があります。また著作権は作者とそして作者から許可を得た人のみが交渉することができるものです。したがってそれ以外の第三者によって許可された著作権は無効になります。何をどのような条件で譲渡するのか明確にすることはとても重要です。細かく説明することなく「知的所有権すべてを譲渡する」という条項は不法です。ただし注文によって創られた作品は例外で、この場合は明確にした、またはすべての権利を譲渡するのが一般的です。
このような問題はコンクールの出展作品にもよく起こります。参加者は出展作品のすべての著作権を譲渡することが参加条件になっている場合があります。この場合、参加は誰にも強制された行為ではありませんが、参加作品を超えた広い解釈の権利の利得が見られます。もしもこのような条件に疑問があれば、主催者に説明を求めたほうが良いでしょう。
造形芸術家が一国の文化を形成する基礎であるということを忘れてはなりません。誤った使い方を恐れて何も対策を打たないのではなく、インターネットのような新たな通信技術を、事前に手順を踏んで法的保護をした上で最大限に利用し、作品をより多くの人に知ってもらうべきです。