記事・コラム

記事・コラム

日本企業の中国特許出願翻訳の現状について(中国弁理士からのアドバイス)

日本企業の中国特許出願翻訳について

中国弁理士 王 礼華

特許翻訳の重要性

 中日経済交流の増大に伴い,知的財産をめぐる法的トラブルが増加するのは必然である。このような状況において,中国に進出した又は進出しよう日本企業としても中国で知的財産保護を求めることは,企業経営においても重要なことである。
言うまでもない、中国特許出願の目的は企業の知的財産を保護するためである。
(1) 中国知的財産現状
中国は、製造拠点および巨大な市場として外国企業によって注目されている。経済発展とともに、中国の知的財産権はさらに重要な進展を遂げた。
簡単ながら2005年の知的財産、特に特許について紹介する。
2005年中国専利出願数
出願種別 全体件数 国内 外国
合計 476,264 383,157 93,107(日本36,221)
発明(特許) 173,327 93,485 79,842
実用新案 139,566 138,085 1,481
意匠 163,371 151,587 11,784
上位外国企業専利出願数
順位 国別 企業名 出願件数
1 韓国 Samsung Electronics 3508
2 日本 松下電器 3042
3 オランダ Philips 2709
4 日本 Sony 1652
5 韓国 LG 1424
6 米国 IBM 1213
7 日本 Toshiba 1177
8 日本 SEIKO 1119
9 韓国 Samsung SDI 1052
10 日本 Canon 940
そして、日本企業側は、中国特許をUS特許と同じ重要度に位置付ける企業もどんどんでる。
また、2005年に国務院は国家知識産権局など20部門以上が参加する国家知識産権戦略制定業務指導グループを成立させた。国家の知的財産権戦略の制定が開始された。国家知的財産権戦略の制定は、現在の中国の改革開放と経済社会の発展における客観的な必要であり、知的財産権の国際規則の変革による挑戦に積極的に対応し、公平な競争の市場環境の構築を速め、中国の自主革新能力と核心的競争力の強化に役立つものだ。
中国で知的財産権の更なる発展および保護の強化は、期待できると思っている。
(2) 特許権の保護範囲
中国特許法の第56条では、特許権の保護範囲は権利請求書であるクレームに基づいており、明細書と図面はクレームの解釈に用いることができると規定されている。
また、北京市高級人民法院の発行した「特許権侵害判断の若干の問題に対する意見(試行)」において、発明特許権保護範囲について、「クレームの内容を基準とする」、「明細書及び添付図面はクレームの解釈に用いることができる」、「特許の保護範囲を確定する場合、国家の権利付与機関が最終的に公告したクレーム本文又は既に法的効力が生じた復審決定、取消決定、無効決定で確定したクレームの本文を基準としなければならない」という内容が記載されている。即ち、特許権侵害判断時、中国語クレーム本文が判断基準となる。
従って、排他的独占権を有するクレームの特許翻訳は正しいかどうか、非常に重要なことであると言えよう。
特許制度の厳しさによって、性格的に特許出願明細書の翻訳作業は通常の技術文献の翻訳とは全く異なる。もし記載内容が間違った場合、すべての権利を失うかもしれない。

中国特許翻訳の現状

(1) 中国特許出願用としての原稿
日本企業から中国特許を出願する際、中国語明細書の基礎となるものは、通常、二つの種類がある。
一つは英語原稿、例えばUS又はEP出願用の英語原稿で、もう一つは日本語明細書である。後者は前者より多いといわれている。
英語原稿の場合、担当できる弁理士が多いが、二重翻訳(日本語 → 英語 →中国語)なので、誤訳確率が高い。そして、日本語から直訳の特許英語となっているため意味不明の文章が多い。そのうえ、中国特許制度及び明細書の書き方はアメリカ、EP諸国と差異がある。英語原稿はそのままで出願すると、間違えた内容になるかもしれない。
さらに、オフィスアクシュン段階でまた二重翻訳(中国語 → 英語 →日本語)が必要なので、誤訳だけでなくコストもかかる。
一方、日本語明細書の場合、担当できる弁理士が圧倒的に少ないことは現実である。
(2) 現地事務所のやりかた
中国現地事務所で処理案件が急増なので、月十数件新規出願を担当する代理人もいる。日本語明細書の翻訳を外注に出し、代理人チェックする場合が多い。それで、原稿に基づいてそのまま翻訳して中国出願明細書を作成するのはほとんどである。
(3) 新しい技術
特許技術において、新しい技術およびその技術用語がどんどん出ているが、技術用語辞典にも載っていないことが少なくない。
(4) 問い合わせ
明細書の内容について、わからないところがときどきあるはずが、中国現地事務所から問い合わせまたは提案などは殆どない。
前記の原因で中国語明細書に誤訳などの翻訳問題が多発することは実態である。
(5) 誤訳補正
出願後、自発的補正は二つの機会がある。すなわち、実体審査を請求するとき、および発明出願の実体審査段階に入る旨の通知書を受領した日より起算して3ケ月以内である。
補正できる内容は、どの場合も出願時に中国特許庁に提出した出願書類の内容をこえてはならない。
従って、もし、審査官は補正が元の出願書類の内容を超えたと考えれば、補正できない。

日本企業の留意事項

筆者の日常実務経験からその留意事項を提言する。

(1) 前記説明のように、英語原稿は二重翻訳などの原因で誤訳確率が高い。やむを得ない場合、英語原稿のほか、参考として対応日本語明細書も提供するほうがいい。
(2) 通常、現地代理人は、提供された原稿に基づき中国語明細書を作成する。それで、基礎としての日本語明細書の質がいいかどうか、非常に重要である。もし、日本語明細書に記載ミスがあれば、この明細書を基づきそのまま中国語に翻訳され、特許として登録された後、中国特許法により正しいものに直すことが不可能である。
従って、まず、日本語明細書を論理的に記述して翻訳者が理解できるように「論理力」をアップさせる必要がある。
(3) 前記説明のように、特許権侵害判断時、中国語クレーム本文が判断基準となったので、会社の重要な特許出願について、現地事務所の作成した中国語明細書を提出する前に、そのクレームの内容をチェックしたほうがいい。
チェック手段として、例えば、以下のようにできる。
A. 比較方式チェック
B. 分割方式チェック
(4) 中国特許を出願する際、現地事務所にその出願の翻訳者、担当弁理士などの情報を明記にしてもらう。これによって、担当弁理士に責任感を与え、質の向上を図ることができるかもしれない。
(5) 新しい技術用語は定義をしたり、英語をつけたほうがより正確に翻訳されやすい。
(6) 前記説明のように、日本語のできる弁理士が非常に不足しているので、ぎりぎりになって依頼すると、スケジュール調整が難しく誤訳確率が高い。それで、時間的に余裕をもったほうがいい。
(7) 社内で翻訳資産を構築する。
A. データベース化
B. 辞書つくり
C. 統一用語の構築
本文について問い合わせがある場合、日本アイアール株式会社まで連絡お願いします。