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医薬品に関する様々な特許[配合剤特許/併用特許/結晶特許/用法容量特許]

医薬品と特許

これまでのコラムでご紹介した医薬品分野の特許としては、物質特許用途特許製法特許製剤特許がありますが、その他にも様々な特許が出されています。

中には重要な特許もあり、訴訟に発展することもあり得ますので、上記4種類の特許に限ることなく種々の特許に注意する必要があります。

今回は、医薬品の特許について、上記4種類以外のタイプの概略をまとめてみました。

1. 医薬品分野のその他の特許とは

医薬品分野のその他の特許の種類として、主なものを挙げてみます。

(1)配合剤特許

複数の有効成分が同一製剤に含有することを特徴とする特許があり、「配合剤特許」などと呼ぶ場合があります。

例) イブプロフェン配合剤

再表95/015751の特許請求の範囲は、「1.イブプロフェンとイソプロピルアンチピリンを含有することを特徴とする配合剤。」と記載されている通り、二つの成分を含有する特許となっています。 他にも、配合剤特許の特許としては、「有効成分Aと有効成分Bを含有する○○治療剤」などと記載されることがあります。

(2)併用特許

「併用特許」とは、一度に使用する複数の有効成分の組み合わせを限定する特許をいいます。

例) 併用抗癌剤

特許4865427の特許請求の範囲は、「シス-オキザラート(1R,2R-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)を含んで成る第一の抗癌剤と5-フルオロウラシルを含んで成る第二の抗癌剤との併用抗癌剤であって、時間差投与計画において、相乗的有効量の前記第二の抗癌剤の投与の2又は3日前に相乗的有効量の前記第一の抗癌剤が投与されることを特徴とする、前記第一の抗癌剤と第二の抗癌剤の相乗作用を有する併用抗癌剤。」と記載され、2種類の抗がん剤が併用されている内容となっています。

(3)結晶特許

物質の結晶構造を特定する特許もあります。例えば、「粉末X線回折において、〇〇°、〇〇°の回折角を有する有効成分Aの結晶」などが挙げられます。

例) 結晶性塩酸アムルビシン

特許2975018の特許請求の範囲は、「【請求項1】  粉末X線回折図において下記の回折角(2θ)、相対強度を示す結晶性塩酸アムルビシン。・・(回折角(2θ)省略)」となっています。 他にも、「有効成分Aのα型結晶」「融点〇〇℃以上の有効成分Aの結晶」などと記載されることがあります。

(4)用法用量特許

医薬品の有効成分の1日の投与回数を限定したり、1回当たりの投与量を限定したりする特許を「用法用量特許」などと呼ぶ場合があります。

例) エミシズマブ

エミシズマブの効能又は効果は 先天性血友病A(先天性血液凝固第VIII因子欠乏)患者における出血傾向の抑制 後天性血友病A患者における出血傾向の抑制 となっています。添付文書を見ると用法用量が記載されていますが、このうち、後天性血友病A患者における出血傾向の抑制の用法用量については、特許が出されています。

特許6836696 【請求項1】

「後天性血友病Aを治療するおよび/または後天性血友病Aの発症率を低下させるために使用するための、エミシズマブを含む医薬組成物であって、エミシズマブが、6mg/kgの抗体の用量で初日に投与され、3mg/kg~6mg/kgの抗体の用量で2日目に投与され、かつ1.5mg/kg~3mg/kgの抗体の用量で8日目から1週間毎に投与され、該8日目からの1週間毎の投与が1回以上反復される、前記医薬組成物。」

2. 医薬品メーカーにおけるこれらの特許の重要性

これらの特許も製剤特許や製法特許同様に、特許の存在自体は、厚労省の承認に影響はないのですが、ジェネリック医薬品が先発会社の特許に抵触すると訴訟になりますので、特許回避やその他の対策が必要になります。 一方、先発医薬品企業としては、種々の特許を出願しておくことは製品寿命を延ばす場合もあることから、ジェネリック対策として種々の特許を出願しておくことが望ましいと考えられます。

3.特許の存続期間・延長制度

これらの特許の場合も、安全性等を確保するための試験の実施や国の審査等により特許権の存続期間の侵食があるため、最大で5年間の延長が認められます。その間は特許の製品を製造販売することはできなくなりますので、期間満了まで待つか回避等の対策が必要になります。

4.その他特許の調査方法

物質、用途、製法、製剤特許以外の特許については、どのような重要な特許があるかわかりませんので、対象の医薬品に関する特許をできるだけ広く集めることが最善の方法といえます。調査としては、キーワード、分類、化学構造等々可能な調査をできるだけ行うようにします。その中から注意すべき特許があるか否かを検証していき、注意すべき特許があればさらに深く調査するといった手順を踏む方法が考えられます。特に、ジェネリック医薬品を開発する際には、開発予定の医薬品に関する技術が特許として出されているかに注目して調査をすることも、重要な特許を見落とさないためには必要といえます。

 

上述のように種々の調査方法を行うべきですが、延長情報から重要な特許を発見できることがあります。 ここではいくつかの特許延長による調査例を挙げてみます。

特許延長についての調査

確認例①:イブプロフェン配合剤

J-PlatPatの特許・実用新案検索で、[検索項目]として[延長登録出願情報]を選択、[キーワード]に[イブプロフェン]を入力して検索してみると、4件の特許がヒットします。 例えば、4件目の再表95/015751をクリックして[文献表示]させ、[延長出願]をクリックすると延長出願の概要が表示されます。この出願の場合は延長出願の隣に、[延長登録]の表示がありますので、ここをクリックすると延長された内容が表示されます。

イブプロフェン配合剤

この特許が、有効成分として「イブプロフェン、イソプロピルアンチピリン、無水カフェイン」を含有する医薬品(配合剤)が、「鎮痛・歯痛等」で「5年」の延長が認められていることがわかります。

確認例②: エミシズマブ用法容量特許の延長について

同様に「エミシズマブ」を入力して、「特許6836696」を選択、延長出願をクリックしてみます。

エミシズマブ用法容量

上の画像では用法容量の記載が切れていますが、「通常、エミシズマブ(遺伝子組換え)として1日目に6mg/kg(体重)、2日目に3mg/kg(体重)を皮下投与し、8日目から1回1.5mg/kg(体重)を1週間の間隔で皮下投与する。」となっています。この延長出願は、まだ出願の段階であることがわかります。

思わぬ特許侵害に注意!

物質特許、用途特許、製法特許、製剤特許以外の特許は、通常軽視されがちですが、後から支障のある特許が見つかったりすることがありますので、後手にならないよう対策を考えておきたいものです。例えば、一覧表を作成したり、データベースとしておくのもよいと思われます。定期的にアップデート、見直しを行い、重要な特許を見落とすリスクを減らすことができます。

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)