記事・コラム

記事・コラム

医薬品の製剤特許に関する基礎知識と調査方法

医薬品

医薬分野における特許としては、製剤特許が最も多く出願件数が多いと思われます。製剤技術に関するもの、添加物に関するものなどが主になりますが、特許の内容は多岐にわたります。また、医薬における訴訟でも製剤特許を対象としたケースは多くあります。

今回は、製剤特許について概略をまとめてみました。

1. 製剤特許とは

医薬品は投与された際に、最適な効果が得られるように製剤設計されますが、その医薬品に用いられた製剤技術や添加物などを特許として出願したものになります。例えば、化合物を安定化させる工夫や有効成分の吸収率向上などを目的とした製剤技術はこの製剤特許に当たります。

基本的な製剤は、物質特許等に記載されことが多いですが、製法特許同様に後から改良がされ特許出願されることもあります。ジェネリック医薬品対策の一環としての出願も多く見受けられます。

2. 製剤特許の種類

製剤特許には主に次のようなものが挙げられます。

(1)処方

製剤特許しては最も多くみられる特許といえます。製剤中の有効成分以外の添加物を検討することによって、例えば、安定性や溶解性を向上させることができたとして特許出願されます。より具体的には、有効成分に対して知られていない添加物を用いたり、添加物の含有量を範囲限定するなどして特許を出願します。

例)

  • 有効成分Bに添加剤CとDを配合した徐放製剤
  • 有効成分Eに添加剤Fを○○~○○重量%配合した錠剤

(2)剤形

医薬品の形状・形態に関する特許です。剤形としては、錠剤、カプセル、粉末、シロップ、注射液、配合剤等々が挙げられます。剤形を後から変更したものを特許として出願したりします(錠剤からカプセル剤など)。錠剤を徐放錠やOD錠等にしたりするのも剤形変更といえます。剤形を変更すると処方も変わることが多いので(1)とともにクレームされることもあります。

(3)製剤構造

主に錠剤の場合で、その錠剤の構造に関する特許も多く出願されます。例えば、安定性を向上させたフィルム錠や飲みやすくした糖衣錠などが挙げられます。配合変化を起こす複数の成分を直接接触させない別々の層とした二層錠なども製剤構造といえます。

(4)製剤製法

製剤を製造する方法も特許出願の対象にされます。製剤工程における条件を特定したり、添加物を加える順序に特徴がある場合などが挙げられます。上記の処方特許や剤形、構造の特許とともにクレームされる場合もあります。

3. 医薬品メーカーにおける製剤特許の重要性

製剤特許の存在自体は、厚労省の承認に影響はないのですが、ジェネリック医薬品が特許に抵触すると訴訟になりますので、特許回避やその他の対策が必要になります。
一方、先発医薬品企業としては、製剤特許は製品寿命を延ばすことも考えられることから、ジェネリック対策として随時製剤特許を出願しておくことが望ましいと考えられます。ただし、製剤特許には、上記の通り種々の特許がありますが、「製剤製法」のような方法の発明の場合は、その方法およびその方法により生産したものにのみ権利が及ぶことになりますので、権利行使においてはその方法により生産したことを特定できるかがポイントになることは製法特許と同様となります。また、処方特許の場合は、物の発明になりますが、製剤品に用いられる添加物を特定できるかが問題になることもあるようですので、特許出願には検討を要する場合があります。

4.特許の存続期間・延長制度

製剤特許の場合も、安全性等を確保するための試験の実施や国の審査等により特許権の存続期間の侵食があるため、最大で5年間の延長が認められます。その間は特許の製剤品を製造販売することはできなくなりますので、期間満了まで待つか回避等が必要になります。
製剤の特許の場合も、J-PlatPat等で調査することができます。

5.製剤特許の調査方法

医薬品の製剤特許については、特許分類(IPCなど)やFタームが多く付与されていますので、これらを用いて調査することが効率的な場合が多いです。

(1)IPC

医薬品の製剤特許調査には、「A61K 9/00 特別な物理的形態によって特徴づけられた医薬品の製剤」が利用できます。例えば、錠剤は、「9/20 ・丸剤,ひし形剤または錠剤」、カプセル剤は、「9/48 ・カプセル製剤」などを用いて調査ができます。

(2)Fターム

「4C076 医薬品製剤」が利用できます。医薬品に関するFタームは、形態、活性成分、不活性成分(添加物)、目的、機能、製法など細分化されていますので、より調査目的に合った調査をすることができると思われます。例えば、コーティング剤は「4C076AA44 ・・・コーティング錠」、錠剤の製法は「4C076GG14 ・・・製錠」、注射剤の凍結乾燥製剤の製法には「4C076GG06 ・・・・凍結乾燥法」などを用いて調査することができます。

(3)特許延長についての調査・確認

製剤特許も延長対象になることから、製剤特許についても延長有無の調査は必須です。
製造方法の特許の場合も、物質特許の場合と同様に、J-PlatPatで調査することができます。
いくつか延長の例を挙げてみます。

例①:アダリムマブ製剤特許の延長について確認

J-PlatPatの特許・実用新案検索で、[検索項目]として[延長登録出願情報]を選択、[キーワード]に[アダリムマブ]を入力して検索してみますと、17件の特許がヒットします。
例えば、1件目の特開2016-128466は、「改良型高濃度抗TNFアルファ抗体液体製剤」に関する特許です。「特開2016-128466」をクリックして[文献表示]させ、[延長出願]をクリックすると延長出願の概要が表示されます。この出願の場合は延長出願の隣に、[延長登録]の表示がありますので、ここをクリックすると延長された内容が表示されます。

アダリムマブ製剤

これにより、この製剤特許が「アダリムマブ」、「多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎」で「1年1月13日」の延長が認められたことがわかります。

例②: ナルフラフィンOD錠特許の延長について確認

同様にして、J-PlatPatの特許・実用新案検索で、[検索項目]として[延長登録出願情報]を選択、[キーワード]に[ナルフラフィン]を入力して検索してみますと、7件の特許がヒットします。

例えば、1件目の再表2010/113841を見てみます。この特許は「口腔内崩壊性被覆錠剤」に関する製剤特許です。 [延長登録]を表示してみます。

ナルフラフィンOD錠

このOD錠に関する特許が、「ナルフラフィン」、「そう痒症の改善」の用途で「1年11月26日」の延長が認められていることがわかります。

(4)意匠法

製剤特許の中で製剤の形状を特徴とするものがしばしば見受けられます。例えば、分割錠や変形錠などが挙げられます。特許として出願される一方で、製剤の形状は工業的デザインとしてとらえることができますので、意匠法で権利を取得できる場合もあります。このような場合には、意匠の調査も行う必要があります。

例えば、医薬品の場合は、意匠分類のDターム「J7-11」等を用いて検索することができます。

ということで今回は、製剤特許の基礎知識をご紹介しました。
医薬品分野において、製剤特許に関する侵害訴訟は多く見受けられますので、判例などを定期的にチェックすることもおススメします。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)