OTC医薬品の基礎知識と知財の注意点|スイッチOTC/ダイレクトOTCって何?
処方箋がなくても薬局やドラッグストアで買える薬、すなわち一般用医薬品(OTC)は、多くの種類がありますが、OTCは自分で選ぶことができ、また、薬剤師と相談もできたりして、購入しやすいなどの利点があります。風邪や疲労など比較的軽い病気などの症状緩和などに使う機会も多いと思います。
今回は、OTC医薬品の基礎知識と、特許やその他の知的財産権について概略をまとめてみました。
1. 一般用医薬品(OTC)とは
一般用医薬品(以下、OTC)とは、薬局・薬店・ドラッグストアなどで販売されている医薬品で、別名「大衆薬」「市販薬」とも呼ばれています。処方箋がなくても薬局やドラッグストアで、薬剤師等の専門家のアドバイスを受けて、買うことができる医薬品です。OTCは、自分の健康は自分で守るという“セルフメディケーション”を推進するものとして位置付けられています。
作用・副作用の度合いで大きく4つの分類(第1類~第3類、要指導医薬品)に分かれており、それぞれ販売者・情報提供のルールが異なる等、消費者がOTC医薬品を適切に使用出来るように配慮されています。
- 要指導医薬品:スイッチ直後のOTC等、特に注意が必要で十分な情報提供を要する医薬品。薬剤師による説明等が原則とされており、インターネットでの購入はできないことになっている。
- 第一類医薬品:使用に関して副作用や作用の強さ等に対して注意が必要な医薬品。インターネットでの購入は可能。
- 第二類医薬品:副作用等で日常生活に支障をきたす程度の健康被害が生ずる恐れがある医薬品。
- 第三類医薬品:作用、副作用などが緩和であり、安全性が高いとされている医薬品。
なお、OTCは健康保険の給付対象にはならず、全額自己負担となります。(ただし医療費控除の対象になることがあります)
2. OTCの市場規模
国内OTC医薬品市場規模は、毎年右肩上がりの傾向を示しており、2018年の小売りベースとしては8千億円を超える市場となっています。
2017年の分類別の売り上げとしては、(ミニ)ドリンク剤が1600億円超、総合感冒薬、ビタミン剤がおよそ700億円台、目薬が500億円、胃腸薬が400億円、パップ剤や解熱鎮痛剤が350億円程度となっており、世界では800億ドルとされています。
3.OTCの特徴
OTCの特徴としては下記のようなものが挙げられます。
- 医療機関で長年使用されて、効果や副作用が十分にわかっているものがOTCとして販売されることが多い。
- 新たな薬効成分を用いることは少なく、研究開発の負担は比較的小さいケースが多い。
- 広告宣伝費や店頭プロモーション等の販売促進費がかかる。
- 薬価制度の対象外であるため、保険がきかない。ただし、セルフディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得税控除制度)がある。
4.開発経緯によるOTCの分類(スイッチOTC/ダイレクトOTC)
(1)スイッチOTCとは
「スイッチOTC」とは、医療用医薬品として用いられた成分を、OTCに転換(スイッチ)した医薬品をいいます。これまで医師の処方箋によらなければ使用できなかった医療用医薬品の中から、使用実績があり、副作用の心配が少ないなどの要件を満たした医薬品をOTCとして認可したものです。
主な例としては、解熱鎮痛剤の「イブプロフェン」、消炎剤の「インドメタシン」、生理痛用薬の「イブプロフェン」などがあり、2019年5月末時点で、86成分1727品目が指定されています。
スイッチOTCとなる基準としては、上記の長期間の使用実績、副作用が少ない等の有効性や安全性が挙げられ、また、使用しやすいことや国民の要望があることなども判断基準に含まれています。
スイッチOTCも要指導医薬品、第一類医薬品・・等に分類されますが、スイッチOTCのOTC医薬品としての期間が短い場合はリスクが不確定なため、要指導医薬品として取り扱われています。
(2)ダイレクトOTCとは
「ダイレクトOTC」とは、国内において医療用医薬品としての使用実績がない新有効成分含有医薬品を、直接OTCとして販売する医薬品です。販売時には必ず消費者に対して、薬の情報提供が義務付けられています。
ダイレクトOTCとしては、発毛効果を持つ「ミノキシジル」、足のむくみを改善する効果を持つ「赤ブドウ葉乾燥エキス混合物(アンチスタックス)」、月経前症候群治療薬「チェストベリー乾燥エキス(プレフェミン)」等が挙げられます。
5.OTCと知的財産権
OTCは、一般的には、医薬品成分の特許(物質や用途特許)は期間満了となっているものが殆どですが、他の特許や意匠権、商標権などが取得されている場合があり、製品開発の際には注意を要します。
- 特許・実用新案:有効成分やその用途(効能効果)の特許は切れていることが多いものの、OTCに関連する特許が存在する場合もあり、注意が必要です。例えば、製剤や配合剤、容器(包装)などに関する特許・実用新案が挙げられます。
- 意匠:錠剤や容器の形状など、デザインに特徴がある場合は注意が必要です。
- 商標:商品名(ブランド名)は、商標権侵害とならないように注意が必要です。
その他上記の知的財産権がないとしても、不正競争防止法によって訴訟になる場合も考慮しておく必要があります。
比較的最近の話題としては、「ヒルマイルド」の販売が「ヒルドイド」の商標権侵害および不正競争行為に当たるとして訴訟になったという事例があります。
OTCで訴訟になった事例は少ないですが、 OTC医薬品を製造・販売にあたって知的財産権を事前に調査することは不可欠と言えるでしょう。
以上、今回はOTC医薬品の基礎知識についてご紹介しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)