記事・コラム

記事・コラム

新規医薬品と特許|初心者でも知っておきたい前提知識

医薬品特許の基礎知識

新規医薬品を開発するには、膨大な費用と時間が必要とされています。新規医薬品を保護する特許は、医薬品開発を行う企業にとっては大変重要な権利といえます。一方で、医薬品は、比較的少ない数の特許で製品を守っているという特徴があり、他の分野とは大きく異なっているところもあります。

今回は、新規医薬品の開発や保護、特に特許との関連について概略をまとめてみました。

なお、このコラムは、医薬品メーカーの知財担当者などで、まだ実務経験の少ない方を対象とした入門的な内容になっています。

1.医薬品 (新薬) 開発と保護

我が国では、毎年多くの新しい薬(新医薬品)が上市されています。
新薬医薬品の開発には莫大な費用と上市(販売開始)するまでに10~15年程度とされる開発期間がかかる一方で、新薬開発の成功確率も約2万~3万分の1程度と大変低いとされています。

製薬会社は、新薬を開発・販売すると大きな利益を上げることができますが、販売された医薬品の売り上げ(利益)によって開発費を回収し、さらに、次の新薬開発を行っていく必要があります。

そのためには、製品をできるだけ長い間独占的に販売し、できるだけ多くの利益を確保する必要があります。すなわち、医薬品を保護する必要がでてきます。

2. 医薬品(新薬)の保護期間

医薬品(新薬)が販売されると主に下記の2つによって保護されます。これにより、独占的に販売できることになります。

  • 1. 再審査期間(データ保護期間)
  • 2. 特許権

ジェネリック医薬品は、再審査期間(データ保護期間)および物質特許・用途(効能効果)特許の両方が満了した後に承認となり(パテントリンケージ) ます。したがって、これらのいずれか長い期間が終了するまでは、第三者は同じ医薬品を製造販売することができないことになっています。

通常は、特許は延長されることが多く、再審査期間よりも長くなるケースが多いです。

もちろん、第三者が同じ医薬品を製造販売するには、そのた特許以外の知的財産権にも抵触しないことが必要になります。

3.再審査期間(データ保護期間)

(1)医薬品の再審査期間とは

再審査とは、「新薬について、承認後一定期間が経過した後に、企業が実際に医療機関で使用されたデータを集め、承認された効能効果、安全性について、再度確認する」制度をいい、その期間を再審査期間といいます。再審査期間は、日本では8〜10年 (配合剤等は6年用法・用量等は4年) とされています。

再審査期間中は、ジェネリック医薬品の申請が行えないことになっています。

(2)データ保護期間とは

新薬を開発した企業が製造販売の承認を受けるために提出した臨床試験などのデータが、知的財産として保護される期間です。

日本では平成19年4月1日付けの以下の通知で、原則8年間となったことから、再審査期間が、実質的なデータ保護期間として機能しています。(※環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では、新規医薬品のデータ保護期間をすくなくとも5年、バイオ医薬品は8年とすることで合意されています。)

なお、米国ではデータ保護期間は5年(バイオ医薬品は12年)、EUでは10年となっています。

4.医薬品特許の種類

医薬品に関する特許は以下のように分類することができます。

  • 物質特許:活性成分そのものの特許
  • 用途特許 :医薬品の効能効果の特許
  • 製法特許 :活性成分(物質)を製造する方法の特許
  • 製剤特許 :医薬品剤形(錠剤、注射、外用剤など)の特許
  • その他  :配合剤、併用、用法用量、試験法 等々

ジェネリック医薬品の申請はいずれの特許期間中でも行えますが、承認は物質特許・用途(効能効果)特許の両方が満了した後にとなります。

基本的には物質特許・用途特許が重要となりますが、ジェネリック医薬品の参入を阻止する目的としては、製法特許、製剤特許、用法・用量特許、さらに他の知的財産権を取得しておくことも有効な手段といえます。

5.特許期間延長制度

特許権の存続期間は、出願日から20年で満了するのが原則です。しかし医薬品の場合は、薬機法に基づく承認を受けるために臨床試験を行う必要があり、医薬品の承認取得・上市までの間は販売ができません。この臨床試験から承認までの期間は、特許が侵食された期間であるとして、その回復を目的として5年を上限に特許権の延長が認められる場合があります。

なお、2011年最高裁判決により、物質特許・用途特許に加え、製剤特許にも特許期間延長が認められるようになりました。製剤特許が延長された場合、その特許発明の製剤では販売できないことになります。

 

以上、今回は新規医薬品と特許について概略をご紹介しました。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)