特許調査の専門家が教える「ファミリー単位検索」の基本と実務上のポイント
1.特許検索における「3つの単位」
事業活動をスピーディかつ安全に進める上で、高精度な特許検索を効率的に行うことは重要です。
特許調査の戦略や検索方針を立てる際、多くの方は「どのようなキーワードや特許分類(IPC・FIなど)を組み合わせるか」という検索式の作成に意識が向きがちです。
しかし、実はそれと同じくらい重要なのが「どの単位(まとまり)で検索し結果を出力するか」という判断です。
特許のデータベースでは、大きく分けて以下の3つの検索単位が存在します。
- 公報単位: 特許庁などが発行する特許文献の公報を、1つずつ独立した単位として扱う方法です。通常、出願日(優先権主張がある場合は優先日)から約1年6か月後に発行される「公開公報」と、権利化後に発行される「登録公報」などが別々のヒット件数として扱われます。
- 出願単位: 個々の特許出願(出願番号)をベースに情報を集約する方法です。同一出願に由来する公開公報や登録公報を1つにまとめて管理・表示します。
- ファミリー単位: 優先権主張などによって結びついた「同一または関連する発明に基づく世界各国の出願(特許ファミリー)」を1つのグループとして束ねて扱う方法です。
なお、「ファミリー単位で検索すること」と「検索結果をファミリー単位で集約・表示すること」は異なります。
本記事でいう「ファミリー単位検索」とは、ファミリーを基本的な検索レコードとして扱い、同一ファミリーに属する複数の公報の情報を横断的に検索対象とする方式を指します。また、本記事では、このような検索方式を採用するデータベースを「ファミリー型データベース」と呼びます。
代表的なファミリー型データベースとしては、FAMPAT(Orbit Intelligence)、DWPI(Derwent World Patents Index)、PatBaseなどが広く知られています。
一方、EspacenetやPATENTSCOPEなどの公的データベースにも、検索結果をファミリー単位で集約・表示する機能がありますが、検索の仕組みは異なります。
なお、Espacenetには、ファミリー単位で検索結果を絞り込むフィルター機能も備わっています。
(1)一般的な「出願単位」と「公報単位」
一般的な特許検索では、「公報単位」や「出願単位」で検索する方法が広く用いられています。
例えば、1つの特許出願について、出願公開時の「公開公報」と特許登録後の「登録公報」が発行されている場合、公報単位ではそれぞれを別の公報として扱いますが、出願単位では同じ出願として1件にまとめて扱います。
一方、同じ発明について日本・米国・欧州など複数の国・地域に出願している場合、出願単位ではそれぞれを別の出願として扱います。また、同じ国であっても、例えば分割出願は親出願とは別の出願として扱われます。
(2)ファミリー単位検索
私たちが普段なじみのある「出願単位(国内の1出願)」に対し、調査の効率や視点をガラリと変えてくれる本記事の主役が「ファミリー単位検索」です。
なお、特許ファミリーのグループ化には、いくつかのタイプがあります。
代表的なものとして、同一の優先権情報を基準に、基本的に同じ発明に関する出願をまとめた「シンプルファミリー」(DOCDB)と、優先権関係が直接または間接的につながる出願を広くまとめた「拡張ファミリー」(INPADOC)があります。拡張ファミリーでは、技術内容が完全には一致しない出願も同じファミリーに含まれる場合があります。
このほか、商用データベースが独自の基準で設定したファミリーもあり、利用するデータベースによってファミリーの構成や対象範囲が異なります。
一国ごとの出願に捉われず、優先権関係などで結びついた一連の出願を、国境を越えて横断的に検索できることが、ファミリー単位検索の大きな強みです。
一般的な「出願単位」の検索と比べて、ファミリー単位検索には一体どのようなメリットがあり、どういった調査に真価を発揮するのかについて、以下で解説していきます。
2.ファミリー単位検索最大のメリット:「複数国間の網羅的調査」
ファミリー単位検索の真価は、国境を越えた調査における「圧倒的な効率化」と「検索漏れの抑制」を両立できる点にあります。
(1)重複を排除し、確認件数を大幅に削減できる
世界各国(日・米・欧・中・韓など)に同じ技術を出願している場合、出願単位で検索すると国ごとにヒットするため、同じ内容の公報を何度も読むことになります。
ファミリー単位で検索すれば、これら世界各国の出願が「1つの技術グループ=1件」として束ねられます。そのため、検索結果の重複を減らし、確認対象となる件数を大幅に圧縮できる場合があります。特に複数国への出願が多い技術分野では、調査作業の効率化が期待できます。
(2)「ファミリー内のいずれか」でヒットすることで、検索漏れを抑えられる
ファミリー検索のもう一つの大きな強みは、「ヒット条件の幅広さ(網羅性)」です。
データベースによっては、ファミリー内のいずれかの国の公報に含まれるキーワードや、付与された特許分類(IPC・CPCなど)が検索条件に合致することで、該当するファミリーが検索結果に表示される仕様になっています。
例えば、キーワードの表記揺れや、特許分類の付与精度の相違(下位分類まで細かく付与しているか、上位分類での大まかな付与にとどまるか等)は検索における大きな課題ですが、ファミリー内の複数の公報を横断して検索対象とすることで、こうした要因による検索漏れを抑えられます。
単独の国だけを検索していたら漏れていたかもしれない重要文献も、ファミリー内の「いずれかの公報」が引っかかってくれることで、取りこぼしを抑えることができます。
【※注意点:データベースの検索仕様・設定について】
ファミリー型データベースであっても、検索対象となる情報や検索条件の判定方法は、データベースや設定によって異なります。
例えば、検索対象がファミリー内の複数公報の情報なのか、代表公報の情報に限定されるのかによって、検索結果が変わる可能性があります。また、検索フィールドによっても、対象となる公報や情報の範囲が異なる場合があります。
ファミリー単位検索のメリットを十分に活かすには、代表公報の扱いや検索対象となる公報・フィールドの範囲など、検索前の設定や条件を十分に確認することが重要です。
(3)言語の壁を越え、馴染みのある言語で検索・精査できる
グローバル調査において大きなハードルとなるのが「言語」です。外国語の公報を直接解読するのは非常に骨が折れます。
ファミリー検索においては、同じファミリー内に英語や日本語の公報が含まれていれば、まずは読み慣れた言語(英語や日本語)の公報で内容をスピーディに確認できます。外国語の公報を直接確認する負担を減らし、効率的に内容を把握できるのも大きな強みです。
(4)本文テキストが未収録の公報やEuro-PCT出願も捕捉しやすい
特許検索において見落としがちな盲点が、「公報の本文テキストデータが存在しない、あるいはデータベースに収録されていない」という問題です。
例えば、PCT出願を欧州段階に移行する場合(いわゆるEuro-PCT出願)では、英語・フランス語・ドイツ語で国際公開されると、その国際公開が欧州特許出願の公開に代わるため、欧州特許庁から明細書全文が改めて公開されるわけではありません。また、電子化・テキスト化が十分に進んでいない国・地域の公報も存在します。
こうした事情により、データベースに特定の公報の本文テキストが収録されていない場合、その公報自体を対象とした本文キーワード検索ではヒットさせることができません。
しかし、ファミリー内の複数の公報を検索対象とするデータベースであれば、同族である他国の公報(USやJPなどテキストデータが豊富な公報)のキーワードや分類がフックとなってヒットする場合があります。結果として、キーワード検索では本来引っかからないはずの公報であってもファミリーの一員として引き上げられ、「その国にも同族出願が存在する」という重要な情報を捕捉できる可能性があります。
3.ファミリー単位検索が「真価を発揮する」2つの調査
ファミリー単位検索のメリットを踏まえると、特に相性が良く大きな効果を発揮するのが「無効資料調査」と「技術動向調査」です。
(1)無効資料調査
無効資料調査(公知例調査)の目的は、対象特許の発明について、新規性や進歩性などを否定する根拠となる先行技術を探し出すことです。(※無効資料調査の詳細はこちら)
- 判定基準は「全世界」:
新規性や進歩性の判断は全世界基準で行われるため、自国だけでなく他国の特許公報も無効資料となり得ます。ファミリー単位で検索することで、世界各国の関連文献を効率的に確認し、検索漏れを抑えることができます。 - ファミリー内の早期公開文献を見つけやすい:
例えば、日本の公開公報の公開日が無効対象特許の出願日(有効な優先権主張がある場合は優先日)より後であっても、そのファミリー内の海外公報(PCT出願による国際公開や外国での公開など)がそれより前に発行(公開)されているケースがあります。ファミリー単位で検索することで、こうした早期の公開文献を見つけやすくなります。ただし、ファミリー内で最も早く公開された公報が、必ずしも目的とする技術内容を開示しているとは限りません。無効資料として活用できるかどうかは、各公報の公開日と具体的な記載内容を個別に確認する必要があります。
(2)技術動向調査(マクロ分析・パテントマップ作成など)
技術動向調査の目的は、特定の技術分野における開発の規模や構造を正しく把握することです。
- 複数国への出願による重複を抑えて技術動向を把握できる:
出願人によっては、同一の発明について「多数の国へ精力的に出願する企業」もあれば、「特定の国を中心に出願する企業」もあります。出願単位のまま集計すると、こうした出願傾向の違いによって件数が歪んでしまいます。同一または関連する発明をファミリーとしてまとめることで、複数国への出願による重複を抑え、企業の技術開発の傾向や技術の広がりを把握しやすくなります。
4.侵害予防調査(FTO)における「ファミリー単位検索」の活用
(1)FTOでファミリー単位検索を利用する際の注意点
侵害予防調査(FTO・クリアランス調査)でもファミリー単位検索は有用ですが、その検索結果を利用する際には十分な注意が必要です。
FTOは、特許の請求項(クレーム)の記載やその解釈、調査対象国における権利状況を厳密に精査することが不可欠だからです。(※特許侵害予防調査の詳細はこちら)
そのため単純にファミリー検索にてヒットした代表公報だけを確認すると、以下のような事態が発生します。
- 国ごとの補正による「請求項の相違」:
同一ファミリーであっても、各国特許庁の審査経過や補正によって権利化された請求項の範囲が国ごとに大きく異なる。 - 分割出願等による「権利範囲の枝分かれ」:
特にアメリカなど、継続出願や分割出願が活用されている国では、同一国であっても、親出願から派生した権利範囲の異なる複数の出願が存在し、それぞれ異なる範囲の権利が成立する場合があります。
代表公報などファミリー内の特定の公報だけを見て判断を完結させてしまうと、「調査対象国の関連出願や分割出願などに、自社製品が抵触する可能性のある請求項が存在していた」という見落としに直結し、特許侵害リスクを抱えることになります。このような見落としを防ぐため、FTOではファミリー単位の検索結果だけで判断を完結させず、調査対象国の個々の出願・特許を確認することが重要です。
(2)デメリットを克服し、検索漏れを抑える活用術
では、FTOでファミリー検索は使えないのかといえば、決してそうではありません。
ファミリー単位検索の強みを正しく理解し、プロセスを切り分けることで、FTO最大の敵である「検索漏れ(見落とし)」を抑える強力な武器になります。
① 「ファミリー内いずれかヒット」の網羅性で検索漏れを抑える
FTOにおける調査上のリスクとして、キーワードや特許分類の指定漏れによる見落としが挙げられます。
先述の通り、キーワードの表記揺れや外国語への翻訳差、付与された特許分類の違いなどもファミリー検索を活用することでカバーしやすくなり、検索漏れを防ぎやすくなります。出願単位の検索と比べて表示される検索件数自体は圧縮されますが、他国の公報がヒットすることにより、直接検索では見つけられなかった対象国の関連公報を、ファミリー情報から確認できる場合があります。
② FTOにおける運用プロセス:「ファミリーで集めて、出願単位で詰める」
請求項の違いや分割出願リスクというデメリットを克服するための解決策は、「スクリーニングのフェーズごとに単位を使い分ける」ことです。
- 第1段階(母集団の形成):
まずはファミリー単位検索を活用し、ファミリー内の関連公報も確認できるようにすることで、候補となる母集団を広く形成します。 - 第2段階(個別精査・確認):
抽出されたファミリーの中からリスクがありそうなものを選び、そのファミリーに含まれる調査対象国の公報を出願単位あるいは公報単位で引っ張り出し、現在の正確なステータスや請求項を精密に確認します。また、関連する分割出願や継続出願についても、ファミリー情報だけに頼らず確認する必要があります。
リストの出力段階において、ファミリー検索でヒットした「公報ファミリー内に含まれるすべての公報(あるいは特定の条件に合致する公報)」を一括出力して精査する運用を行ってもよいでしょう。
5.「ファミリー単位検索」を活用する際の課題
ここまでご紹介した通り、ファミリー単位検索は、検索漏れの抑制と調査の効率化を両立できる有用な手法です。
一方、ファミリー単位検索を活用するには、対応するデータベースの導入や、検索仕様に関する知識など、いくつかの課題もあります。
(1)ファミリー型データベースの選択肢と導入コスト
無料の公的データベースにもファミリー関連機能はありますが、本記事でいう「ファミリー単位検索」とは検索の仕組みが異なります。そのため、ファミリー単位検索を本格的に活用するには、専用の商用データベースを利用する必要がある場合が多く、利用環境が限られることが課題となります。
また、ファミリー型データベースは、世界各国の特許情報の収録・整理に加え、高度な検索・分析機能などの付加価値を備えているため、利用料金も相応に高額になる傾向があります。
(2)ファミリー型データベースによって機能や操作性が異なる
ファミリー型データベースであっても、すべて同じ仕組みで検索できるわけではありません。
ファミリーの構成基準や収録データ、検索対象となる情報、検索条件の判定方法などは、データベースによって異なります。
また、検索式の編集や検索履歴の管理、ファミリー内の公報情報の確認、検索結果の出力・分析などの機能や操作性にも違いがあります。
特許調査では、検索結果を確認しながら検索条件を繰り返し調整することも多いため、こうした操作性の違いは調査の効率や精度にも影響します。
ファミリー単位検索を効果的に活用するには、検索対象や検索条件の判定方法などの仕様を理解した上で、調査目的や作業内容に適したデータベースを選択することが重要です。
(3)ファミリーの変動によって検索結果の再現性が低下する
特許ファミリーは固定されたものではなく、時間の経過とともに新たな出願・公報が追加されたり、ファミリーの構成が変更されたりすることがあります。
そのため、ファミリー型データベースでは、検索対象となる公報の発行日を過去の期間に限定していても、データベースの更新によって検索結果やヒット件数が変わる場合があります。つまり、同じ検索式・検索条件を使用しても、検索時期によって同じ結果を再現できるとは限りません。
こうした特性を踏まえ、過去の検索結果を後から検証できるようにするためには、使用データベースと検索式だけでなく、使用データベースと検索式だけでなく、検索実施日や検索条件・設定などを記録し、必要に応じて検索結果のデータを保存しておくことが重要です。
6. まとめ
特許検索における検索・集計単位は、どれか1つが絶対的に優れているわけではありません。
しかし、ファミリー単位検索は調査の「精度」と「効率」を両立させる上で、有用な検索手法となります。
- 複数国を対象とする調査では、ファミリー単位検索を活用して「広い網」を仕掛け、検索漏れや翻訳のゆらぎ、確認件数の負担を抑える
- リスクのある案件を見つけたら、対象国の「出願単位・公報単位」に切り替えて精査する
ファミリー単位検索は、利用できるDB環境の制約というハードルはあるものの、使いこなせれば、特許調査のレベルを一段上の次元へと高めてくれる強力な武器になります。
一方、ファミリー型データベースを自社で導入することが難しい場合には、これを導入している特許調査会社を活用することも選択肢の一つです。
アイアールでもファミリー型データベースを活用した特許調査に対応しています。外国特許を含む調査をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・I)
