記事・コラム

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このままでは知的財産部はいずれ消滅する!?

このままでは知的財産部はいずれ消滅する!?

1. 知財部(知的財産部)の宿命!?

いまや、知的財産部門の知的基盤(*)の構築は遅れ、知恵の伝承は困難な状態にある。このままでは知財コストは、益々増えつづけることになろう。 ところが、「会社には金がない」。ということで、全社的にコストダウンの大号令である。手っ取り早くコストダウンを進めるならば社員をリストラするしか方法はない。
しかし、人を減らしても、なぜか知財コストは増えていく。今はこの悪循環の繰り返しで知財部崩壊のシナリオができつつある。このままでは、近い将来、知財部の機能がストップしかねない。
(*)ここでの「知的基盤(インフラ)の構築」とは、社内にある知的資産を文書でもって顕在化させ、その情報を社員が共有し、伝承させていく知財マネジメントシステムのこととする

2. 人が減ると何故、知財コストが上がるのか!?

日本企業は、基本的には指名解雇ができない。そこで、希望退職者を募集するわけだが、この制度は社員のやる気を失いさせ、モラルを下げる。すると、やめて欲しくない人までが退職する。できる人はいろんなソフトウェア(経験や知恵など)を持っているから廻りからの信頼も厚い。それが一瞬のうちに会社から消滅するのである。知財部にエースを投入するどころか、定年退職者の仕事を引き継ぐべき後継者すらも育てることを放棄している会社も見受けられる。急遽、頭数を揃えても穴は埋まらない。つまり彼等が持つ経験や知恵といったものを会社に残し伝承していく仕組みを構築してこなかったツケが来ているのだ。彼等のアタマの中に入っている、知的資産(失敗も成功もあるはず)を技術化して会社の知的財産として関係者が共有し、伝承されていくべきであった。この部分が知的財産のマネジメントシステム、即ち知財のIT化である。

大金を払ってお仕着せのコンピュータシステムを導入し、ゴミに等しい、どうでもいい価値のない情報を皆が共有して安心していたのではどうしょうもない。このままでは、その会社独自の知的財産の「共有」と「伝承」はほとんどされないであろう。これはIT技術を使って知的財産のマネジメントシステムを構築することの目的と効果を理解していないことから生じる珍現象といえる。知的財産が会社経営(知財経営の実践)にとって、重要性が増すにつれて、社員に残された最後の仕事である、「判断」「評価」「創造性」「新しい価値観の創出」といった他社と差別化できる「唯一部分」の質の善し悪しが会社の優劣を決めることになる。
何でもかんでも特許出願して、特許権利をとって、特許維持をすることの要否さえ判断できない状況こそが仕事の丸投げ体質を生み出し、知財コストを大幅にアップさせる原因となるのだ。目に見えない知的財産(無体財産)をマネジメントし、新しい知恵(コンセプト)を生み出す価値が理解できないことに起因している。

3. 何故、知財部門は知的財産のマネジメントシステム(IT化)の構築が進まないのか?

企業には経営管理手法のマネジメントシステム(営業、流通を含む)、生産管理手法のマネジメントシステム(製造部門)、そして研究開発部門と知財部門のマネジメントシステムが必要である。いずれのうち、どれが欠けても会社経営での効果は出ない。
中でも手をつけていないのが、研究開発部門と知財部門のマネジメントシステムである。これは技術者が持つ経験や感性といった部分に支えられているからだと考える。どちらかというと、徒弟制度的な仕組みによって、ゆるやかに時間をかけてこそ、伝承が可能なのかも知れない。
しかし今、会社は終身雇用が崩壊し、徒第制度(ウエットコミュニケーションによる伝承)を守りきる余裕がない。ならばIT技術(ドライコミュニケーション技術)によって仕事の仕組みを変えるべきであったが、いかに目先の課題を解決し日々の生産性を高めるだけが目的となっている。だから、生産性の劣るアナログ人間が、とりあえず切り捨てられている。これによってウエットコミュニケーションに頼っていた技術やノウハウの伝承は途切れる。

4. 会社から先人たちの記憶力が失われているのが問題である

いま、会社の人的構成はいびつである。デジタル人間とアナログ人間が両極に位置し、お互いのコミュニケーションがうまく行っていない。デジタル人間はアナログ人間の生産効率の悪さを責め、アナログ人間はデジタル人間の経験や知見の無さを嘆いている。繋ぎ役であるべき働き盛りの「デジアナ人間」は嫌気をさして会社を去る。縦割り組織の弊害であろうか各部門ごと、あるいは上司と部下との責任のなすり合いは溝を埋めるどころか益々深くなっていく。これではうまく行くはずがない。 (もう手遅れの会社がほとんどである)。これはリーダーにも責任がある。若い人が、先輩の知恵を引き継ぎ、IT技術を利用して先人たちの知恵を「伝承」させていく新しい仕組みつくりを明確に指示してこなかったからである。否、その能力が無かったのである。
このままではデジタル人間だけが会社に取り残され、どんな仕事でも右から左へと丸投げするようになる。これではいくら金があっても足りない。金がないから、「なんとかせい」と言えば仕事をやらないか、或いは何にも考えず、ある部分の仕事をバッサリと切り捨てて、経費削減に躍起になるしかない。一見、身軽になるかもしれないが空洞化が確実に起きる。一方、会社から吐き出された中高年技術者は何年も立たぬうちにタダのお年寄りとなっていくか新興国で活躍(技術流出)するしかない。これは人的資源の無駄使いで、実に勿体無いことである。

リストラによって会社は一時しのぎしたところで先人たちの知恵が「伝承」されなければ、やがては競争力を失い、再編されるか倒産するしかない。日本は高齢化と少子化を迎え、国内市場は既に「成熟期、衰退期」に入っている。日本企業が抱えている宿命ともいえる。企業が「持続的発展」を目指すなら世界の市場を開拓するしかない。市場が見込める国への特許出願は増える。そこで無駄な特許出願は見直しされ「量」から「質」へ転換されるべきである。すなわち世界で通用(戦える・武器となる)する特許明細書が求められる。しかし多くの「知財マン」はグローバル社会の現実が理解できていない。相変わらず「これまでやってきたから」「周りがやっているから」という素朴?な理由で日本流を押し通している。それでは特許庁の言うところ『“知的創造サイクルによる知的財産立国を目差す』などということは所詮「絵に描いた餅」である。知的財産部が会社経営の知財参謀となり経営戦略に参加すること、知財の安全を確認して事業の優位性を確保し、新規事業を推進する役目を担うことの可能性は今のところ極めて低いといわざるを得ない。であれば知財部の存在価値はなくなる。

5. 知財コストが増えつづける部分を改革すべし!!

知的財産部門の仕事は判断、評価という時間と人手のかかる部分が多い。しかも仕事量は増えつづける一方で減ることはない。厄介なことに日々片付く簡単な仕事は少なく長い期間引きずっていく。更に新しい仕事がどんどん加わるから「知財マン」はストレスと疲れで元気が出ない。すると、人間はだんだんと「暗~く」なるのである。アナログ的な仕事が多いため(情報収集や特許調査及び解析など)作業が面倒で大変に時間かかるから生産性に限りがある。

ところが一生懸命に仕事をしているにも拘わらず?会社から、各部署から、色々と文句を言われる。そこで、この苦労は誰もがわかってくれないの「くれない族」になって「知財マン」は次第にグレていくのである。こうしてストレスと仕事はどんどん溜まり(金は貯まらないけど)ずさんに処理するようになる。しかし何時の間にか、本人は仕事をやっているつもり、役立っているつもり、貢献しているつもりの”つもり族”となり妥協していく。更に追いまくられるとそのうち何でも丸投げするようになる。関心ごとはコストと納期だけで仕事の品質は気にしなくなる。

6. どんな仕事がずさんになって丸投げになるのか

戦略的な特許出願ができない、市場評価に応じた特許出願の要否判断が出来ない、技術者が書き易い発明仕様書(発明提案書、あるいは発明届書)すら用意できない・教えられない、特許権利取得の必要性の要否判断ができない、特許権利放棄の判断ができない、できないの“ないない尽くしで”とりあえず何でも、どこの国でも特許出願しておくか!とりあえず何でも特許審査請求、特許年金納付をしておくか!休眠特許のオンパレードでも一向に気にしないことにかぎる。たとえ日本テクノマート(特許流通市場)に出したところで筋の悪い特許では売れるわけがない。

それは発明の価値、特許の価値を知り評価する仕組みを待たないからである。元をただせばR&D部門の源流に問題がある。シーズ(自社技術)とニーズ(市場の要求)の出会いが作れていない。つまり特許を取得して事業化する発想が薄い。これは情報収集不足が起因している。ただ特許出願件数のノルマを課し特許出願件数を増やすだけが遣り甲斐のように見受けられる。特許出願はしたが特許審査請求がされないものが沢山ある。特許審査請求した案件は意地でも特許権利(内容は気にしない)をとることだけが目的であるからコジツケ特許が生まれる下地ができてしまっている。

 「知財マン」はビジネスセンスを鍛えてないから特許と経済活動を切り離して考えるようになる。これでは休眠特許が増えるだけで技術・特許移転など出来る訳がない。知財経営を明確にしている企業やアメリカ企業から訴訟されればお金を払うしかない。なんでもそのつど場当たり的にやるしかない。訴訟にはお金がかかると開き直るしかない、英語が苦手だからといって外国特許情報の収集や調査、解析はやらない、これではグローバルな展開が出来ない。発明者の創造力を生み出すデータベースが作れない、特許マップ(パテントマップ)・技術動向マップ・特許権利マップが作れない、出来ない、出来ない”のオンパレードである。文句を言われたら時間が無い、金が無いと言い訳するしかない。ではアタマを使えばと言われたら知恵が無い、では身体を使えばといわれたら根性が無い、では何とかすればといわれたらやる気が無い、つまりどうしょうも無いのである。
たしかに口でこう言うはやさしいけど、実行は難しいかも。でもやるしかない!知財部の存在価値をかけてでもだ。
(知的財産活用研究所 N・Y)

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