記事・コラム

記事・コラム

EPO「EP Register」を用いた欧州特許ステータス・包袋書類の確認方法

欧州連合(EU)の旗

本記事では、EPOの「EP Register」を用いた欧州特許のステータスおよび包袋書類の確認方法について解説します。

1.欧州特許調査における「EP Register」の活用方法

欧州特許(EP)の調査を行う際、多くの人がまず思い浮かべるのは「Espacenet」ではないでしょうか?しかし、実際の実務では「EP Register」を併用するケースが多くあります。まず前提として、一見似ているこの2つのツールの違いと使い分けについて整理しましょう。

「Espacenet」は世界中の1億4,000万件以上の文献を、キーワードや分類(IPC/CPC)で横断的に検索するのに適しています。「どんな技術があるか」という技術情報の収集には欠かせません。一方、「EP Register」は欧州特許庁(EPO)が直接管理する公式の法的記録であり、特定の出願が現在どのような状態にあるか、というステータス・権利情報の深掘りに特化しています。
「まずはEspacenetでアタリをつけ、ステータス等の詳細はEP Registerで確認する」。この使い分けができると、欧州特許調査を効率的に進められます。

本記事ではEP Registerの活用術を中心に解説します。
また、2023年6月1日から開始された「単一効特許:Unitary Patent」関連についても解説します。

2.EP Registerへのアクセス方法

(1)EP Registerに直接アクセスする場合

すでに調査対象となる公報番号がわかっている場合には、直接EP Registerにアクセスしてください。
トップ画面の「Search term(s)」に公報番号を入力すると、詳細画面(EP About this file)が表示されます。

※EP RegisterのURL
https://register.epo.org/regviewer?lng=en

入力例:EP3199598、3582497(※EPを付けなくても検索可能)

EP Registerの詳細画面(ステータス確認画面)

(2)Espacenetの調査結果からEP Registerへ行く場合

調査対象の公報が未確定の場合は、まずEspacenetで対象特許を特定する必要があります。
ここでは、実務で最も頻繁に使う「Advanced Search(高度な検索)」に絞って解説します。

① Espacenetのトップページにアクセスして、「Advanced Search」モードに切り替える

※EspacenetのトップページのURL:
https://worldwide.espacenet.com/patent/

※フォーマットが異なりますが日本語の検索ページもあります。(検索は英語で行います)
https://worldwide.espacenet.com/advancedSearch?locale=jp_EP

EspacenetのAdvanced Search

② 検索条件を入力する

“Advanced Search”で以下のような複数の検索項目を組み合わせて検索が可能です。
なお、EPに限定して検索したい場合には、「Publication number」に「EP」と入力してください。

※項目の一例

  • Publication number/ Application number: 公報番号や出願番号で検索する場合
  • Applicant(s)/ Inventor(s): 競合他社の名前や発明者で探す場合
  • Publication date: 公報発行日の期間指定をする場合
  • CPC/IPC: 技術分野で絞り込むための特許分類

Espacenetの検索項目

③ 検索結果から対象を選択する

検索結果一覧が表示されたら、確認したい公報のタイトルをクリックします。
ここで表示されるのは「Bibliographic data(書誌事項)」です。要約や代表図面、パテントファミリーの状況を把握できます。
それ以外にも「Description」「Claim」などの各項目の情報を取得可能です。

Espacenetの検索結果画面
Espacenetの検索結果画面
「Bibliographic data」の画面
「Bibliographic data」の画面

④ EP Registerに遷移する

書誌事項画面の左上に表示される[EP Register]をクリックすると、EP Registerの該当ページへ直接遷移できます。

EP Registerへ遷移

(3)実務で必須となる4つの重要項目

EP Registerで特定の番号を表示すると、左側にメニューが並び、右側にその詳細が表示される構成になっています。実務上、特に重要なのは以下の4項目です。

①「EP About this file」:基本情報のサマリー

最初に表示されるのが「EP About this file」です。
実務において、この項目だけで「書誌事項」「ステータス」「簡単な審査経過」「分割出願」などの情報を確認することができます。

EP About this fileの画面①
EP Register_EP About this fileの画面①
EP About this fileの画面②
EP Register_EP About this fileの画面②(審査経過詳細・分割情報など)

②「EP Legal status」/「Federated Register」:法的状況の確認

「EP Legal status」と「EP Federated Register」は、どちらも特許の有効性(生死情報)を確認するためのものですが、「欧州特許庁(EPO)での状態」を見ているのか、「登録後の欧州各国での状態」を見ているのかという大きな違いがあります。

EP Legal status:欧州特許庁(EPO)での状態

EP Legal statusは、主に出願から特許登録(Grant)されるまで、および登録直後の異議申立期間における、EPO(欧州特許庁)という一つの機関の中での法的状況を示しています。
ここで現在の審査状態や年金納付、登録後の各加盟国への移行手続の状況などを確認できます。また、INPADOC法的状況(Legal status)データも確認できますので、後述の「EP Event history」と併せて、より詳細なEPOでの審査状態を把握できます。

EP Federated Register:登録後の欧州各国での状態

EP特許は、登録された後に各加盟国(ドイツ、フランス、イギリスなど)へ移行手続きを行うことで、初めて各国の国内法に基づく権利として効力が発生します。この各国での最新状況を横断的に確認できるのが「EP Federated Register」です。かつては各国特許庁(DPMAやINPIなど)のサイトを一つずつ回る必要がありましたが、現在は Federated Register のおかげで、EP Register の画面内で一括確認が可能になりました。
ただし、データの反映に数日のタイムラグが生じる場合があるため、最終判断は各国の公式レジスタへのリンク先(Federated Register内にあります)での確認が必要です。それぞれのページで国名コードをクリックすると、各国の公式レジスタへ遷移することができます。

EP Legal statusとEP Federated Register

《EP Legal statusの画面》

EP Legal statusの画面

《EP Federated Registerの画面》

EP Federated Registerの画面

③「EP Event history」:経過情報の確認

EP Event history」は、出願から現在に至るまでの全手続きを時系列で記録した、いわば「特許の履歴」を示す情報です。単なる過去の記録にとどまらず、現在のステータスに至った経緯を把握し、将来の権利の行方を予測するための極めて重要な項目です。ここで気になる動きが見つかった場合、後述する「EP All documents」から実際の書類(PDF)を参照することで、より詳細な背景を確認できます。

EP Event history

《EP Event historyの画面》

EP Event historyの画面

④ 「EP All documents」:包袋書類の確認

EP All documents」には、出願から登録(または拒絶)に至るまでの審査過程で発生した全ての包袋書類が格納されています(PDF形式で閲覧可能です)。
拒絶理由通知(OA)やそれに対する応答書類の原文を直接取得できるため、審査官の指摘内容や出願人の反論・補正の意図など、具体的かつ踏み込んだ審査状況の把握が可能です。

EP All documents

《EP All documentsの画面》

EP All documentsの画面

(4)その他の確認可能な情報

① 「EP Citations」:引用文献の確認

その特許出願の新規性や進歩性を評価するために参照された、過去の特許文献や非特許文献(論文など)のリストです。なお、この情報は「EP About this file」にも掲載されています。

②「EP Patent family」:パテントファミリーの確認

同じ発明に基づく各国出願の集合(パテントファミリー)を一覧化した項目です。です。その技術が欧州以外(日本、米国、中国など)のどの国で保護されようとしているか、グローバルな権利化戦略を俯瞰できます。

3.単一効特許:Unitary Patentについて

「単一効特許:Unitary Patent(UP)」は2023年6月1日から運用が開始された制度です。
従来の欧州特許が登録後に各国で手続きを行う必要があったのに対し、単一効特許は欧州連合(EU)の参加国全体で「一つの特許」として一括して権利を維持・行使できる制度です。
詳細な制度説明は本記事では割愛しますが、EP Registerでは従来の項目に加えて「Unitary Patent」に関する項目が追加されます。

Unitary Patentの確認

(1)「UP About this file」:Unitary Patentに関する基本情報のサマリー

UP About this fileは、「Unitary Patent」に関する基本情報が集約された専用ページで、通常のAbout this fileの「Unitary Patent版」に相当します。
Unitary Patentにおける現在のステータスやその特許がカバーしているEU加盟国のリストなどを確認できます。

《UP About this fileの画面①》

UP About this fileの画面:Unitary Patentの現在のステータス

《UP About this fileの画面②》

UP About this fileの画面:カバーしているEU加盟国リスト

(2)「UP Event history」/「UP All documents」:経過情報および包袋書類の確認

Unitary Patentにおける経過情報と包袋書類を確認できます。

【参考】EspacenetでのUnitary Patentの記載内容

Espacenetでは、Unitary Patentとして登録された場合には公報種別コードが「C0」と記載されます。
また、Bibliographic dataに「UP About this file」へのリンク情報が追加されます。

《Espacenetの画面①》

EspacenetでのUnitary Patentの確認(公報種別はC0)

《Espacenetの画面②》

EspacenetでのUnitary Patentの確認:UP About this fileへのリンク

欧州特許調査において、EspacenetとEP Registerは、いわば「検索エンジン」と「公式台帳」の関係です。今回ご紹介した公式ツールを使い分けることで、単なる情報の閲覧を超えて、その特許が「今、本当はどういう状態なのか」を正確かつタイムリーに把握できるようになります。
まずは一度、EP Registerにアクセスして確認してみてください。

(日本アイアール株式会社 M・H)