第三章 特許明細書は発明の説明書(発明仕様書)
第三章 特許明細書は発明の説明書
1.発明をどう説明するか
発明とは何か?特許法第2条の発明の定義を見ると、「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを言う。」とありますが、これでは何を説明すればいいのか見当がつきません。よくいわれることですが、特許公報は技術情報であり、権利情報であるといわれますが、その元になっているものは出願人が提出した特許明細書です。
このうち、技術情報と呼ばれる部分が特許明細書の【発明の詳細の説明】に当る発明の説明の部分であり、権利情報と呼ばれる部分が特許明細書の【特許請求の範囲】である技術的範囲が記載された部分です。
技術というためには、技能と異なり客観的なものであり、人間が「目的」を持って自然法則にかなった「手段」を適用することと考えることができる。
技術は、「目的」と「手段」が組み合わせられたものであり、一つの技術は他の技術の「目的」にとって「手段」となるという性質があるため、技術の相互関連性(階層性)が生まれることになります。
技術は、自然法則を利用して、「手段」を合目的的に構成し「目的」を達成することである、とも言われます。この点をとらえて、「発明とは目的と手段の総合である」といわれることがあります。
技術は、相互関連性を備えることで、その時代その時代で、ある技術体系(技術水準)が形成されていることになります発明とは技術に至る前段階のものであり、発明が技術になるためには開発という段階を経なければなりません。特許法でいう「技術的思考」とは、物質化され、実践され得るものとしての「技術的概念」のことであり、技術として社会的に存在でき何らかの価値をもたらすものでなくては、特許制度の目的である産業の発展は果たせないことになってしまいます。
その意味で、発明は人間の目的を満足する手段として実践的なものであって、効果があるものでなくてはならず、この「効果」が発明の価値を決めるものであるといえます。以上の結果、発明は「目的」と「手段」によってなされる人間にとって有用な「効果」からなる総合的なものといえます。これが、いわゆる発明の三要素といわれるものです。
平成6年の特許法改正で、特許法第36条第4項にあった「発明の目的、構成、および効果を記載しなければならない。」という文言が削除され、記載要件が緩和された形になりましたが、発明の本質が変わったわけでもなく、発明の内容を当業者に理解できるように記載することは、発明の利用のためには必須条件であることには変わりありません。依然として、発明の説明書としての特許明細書には、発明の三要素である目的、構成、効果が記載することになります。これら発明の三要素については、下記表に示したように、
という見方もできます(「発明の情報的把握」、大門博著、特許管理31巻4号)。
2.発明の本質的要素は何か
「発明の目的」→「発明の構成」→「発明の効果」と見ていくときに、一つ抜けている項目があります。それは、発明の作用(発明の機能)です。この発明の作用(発明の機能)を先の要素に組み入れた場合には、「発明の目的」→「発明の構成」→「発明の作用」→「発明の効果」という構図が成り立ちます。
つまり、発明の作用とは、発明の構成がどのような作用をしたために、発明の効果を生じることになったかの裏付けの役目を果たすものです。別の言葉で言えば、その発明の本質的要素である「解決原理」に通じるものです。
発明を説明するには、その発明がどのような目的でなされ、その目的を達成するためにどのような手段を採用し、その手段がどのように働き、その結果としてどのような効果が得られたのか、を記載することになります。
3.発明の説明と権利請求の記載
発明の目的、発明の構成、発明の作用、発明の効果、つまり、解決課題、解決手段、解決原理、解決結果で、発明の必須要素のすべてが表わされます。
これらは、特許明細書の【発明の詳細な説明】に記載します。その名のとおり、発明の説明をする部分です。このうち、発明の構成については、発明を客観的に特定するものとして、解決手段を特許明細書の【特許請求の範囲】に記載することになります。そして、【特許請求の範囲】に記載した発明の構成=解決手段こそが、特許権になった場合の排他権を決定する技術的範囲を示します。権利を請求する部分です。