【化学系特許調査の進め方】化学物質による検索② CAS登録番号による特許調査
化学分野の特許調査において、化学物質の表記は様々であるため、化学物質の名称で漏れのない検索を行うことは難しいです。そこで、化学物質を索引することで、調査の利便性・精度向上を図ることができるものとしてCAS登録番号(CAS RN®、CAS Registry Number®, CAS番号)があります。
今回は、CAS登録番号による特許調査の概略をまとめてみました。
なお、このコラムは、主に化学メーカーや医薬品メーカーの知財担当者で、まだ実務経験が少ない方々を対象にした化学分野の特許調査の入門的な内容になっております。
1.CAS登録番号とは?
「CAS登録番号」とは、アメリカ化学会(American Chemical Society, ACS)が発行している文献抄録誌「Chemical Abstracts」(CA、日本では「ケミアブ」とも呼ばれています)で使用される化合物番号です。
基本は1つの化学物質に対して1つのCAS登録番号が付与されており、その化学物質に固有の数値識別子といえます。
2022年4月現在、2億6,300万以上の化学物質にCAS登録番号が付与されており、ACSの作成するデータベースで検索することができます。
2.CAS登録番号が使用できるデータベース
CAS登録番号が使用できるデータベースは数は比較的多くあります。
例えば、ReaxysFile、CASFORMULTNS等々がありますが、特許に関連するものとしては、CASが挙げられ、文献データベースとしては、PubMedなどがあります。
- CA(CAplus):世界的な化学文献の抄録データベースですが、特許も情報源としていることから、特許調査でもよく用いられます。化合物辞書データベースであるRegistryファイルからクロスオーバすることによって利便性良く調査することができます。
- PubMed:世界的な生命科学等の文献のデータベースです。CAS登録番号を入力すると該当文献が得られます。特許は収録対象ではありませんが、新規性調査のツールの一つとして活用できる無料のデータベースになります。(※PubMedの基礎知識はこちら)
その他、CAS登録番号が使用できるデータベースがありますが、その多くは有料となっています。
なお、PATENTSCOPEは、InChIkeyを用いて化学構造が検索できるシステムになっており、CAS登録番号は採用されていません。CAS登録番号の使用が、商用利用とされる場合があるためと思われます。
3.CAS登録番号の調べ方
基本的には化学物質名等を調べる方法と同じです。
(1)Pubchem
PubchemでCAS登録番号を調べることができます。
例えば、「alanine」で検索すると下記のようなデータが表示されます。
「L-Alanine」の後の「56-41-7」がCAS登録番号ですが、この名称の部分をクリックすると詳細なデータが表示されます。
調査においては、「Deprecated CAS」も含めて検索すると、漏れが少なくなります。
(2)J-GLOBAL
J-GLOBALでもCAS登録番号を調べることができます。
たとえば、アラニンを検索すると下記のようなデータが表示されます。
その他、商用データベースやWikipediaなどでも調べることができます。
4.CAS登録番号を用いた検索の注意点
CAS登録番号は、一つの化合物に対して一つの登録番号が付与されています。そのため、関連物質、類似物質などは別のCAS登録番号が付与されることになります。
例えば、酒石酸には以下のような異性体、誘導体、塩等があり、CAS登録番号はすべて異なります。
- d-酒石酸: 147-71-7
- l-酒石酸: 87-69-4
- dl-酒石酸: 133-37-9
- meso-酒石酸 : 147-73-9
- 酒石酸(立体構造が不明なもの) : 526-83-0
- 酒石酸-1,4-14C2: 4493-35-0
- l-酒石酸カリウム: 921-53-9
したがって、CAS登録番号は特定の化合物を検索するには効率的といえますが、関連する誘導体を含めた検索には向いていないといえます。
誘導体をまとめて検索するには、別途化学構造式による検索(部分構造検索)やInChI keyを用いたマーカッシュ検索をする必要があります。
5.CAS登録番号を用いた特許検索
CAS登録番号を用いた特許検索手段としては、CA(Chemical Abstracts)を経由した特許データベース検索があります。CAでCAS登録番号と特許に限定する検索を行うことで、特許情報を得ることができます。
また、そこからWPI等の特許データベースにクロスオーバーすることによって、より詳細な特許情報が得られます。
CAS登録番号を上手に活用して、漏れの少ない特許調査を行いましょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)