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化学系サーチャーのための「糖類」の基礎知識《糖の種類/化学構造等》

化学実験

糖は天然に非常に多く存在するもので、糖質化学、分子生物学、生化学、栄養学等々、糖を扱う分野も多岐にわたります。サーチャーとしても糖を検索することもあると思われますので、糖の基本的な知識は知っておいたほうが良いと思われます。

今回はサーチャーとして知っておきたい糖の基礎知識について取り上げてみたいと思います。

1. 糖とは?糖類とは?

」とは、ポリヒドロキシアルデヒド類やポリヒドロキシケトン類の総称をいいます。

一般的には「糖類」(sugars)は、単糖類(ブドウ糖、果糖等)、二糖類(砂糖等)である遊離糖類を指し、多糖類(セルロース、デンプン等)とは区別されることもあります。

似た言葉で「糖質」がありますが、糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものの総称で、糖類、多糖類、糖アルコールなどから構成されています。炭水化物は、単糖を構成成分とする有機化合物の総称ですが、炭水化物と糖質は同義とされることが多いようです。
分子生物学、生化学、栄養学等それぞれの分野間での扱いに差があるようです。

 

本コラムでは、食物繊維を除いた糖質を含めた糖を対象にすることにいたします。

2. 糖の種類

(1)単糖類

単糖類は、構成する炭素原子の数により、トリオース(三炭糖)、テトロース(四炭糖)、ペントース(五炭糖)、ヘキソース(六炭糖)があります。

分子中にアルデヒド基があるものは「アルドース」、ケトン基があるものは「ケトース」と呼ばれます。


例① D-グリセルアルデヒド

D-グリセルアルデヒド

D-グリセルアルデヒドは、アルドースであり、トリオース(三炭糖)です。(「アルドトリオース」といいます)


例② D-グルコース(ブドウ糖)

D-グルコース(ブドウ糖)

D-グルコースは、アルドースであり、ヘキソース(六炭糖)です。(アルドヘキソース)

なお、アルドースは、トレンス試薬等で容易に酸化されてアルドン酸というカルボン酸になります。このように酸化剤を還元する糖を「還元糖」といいます。単糖はアルドース、ケトースはともに還元糖で、他にラクトース、フルクトースなども還元糖です。


例③ D-フルクトース(果糖)

D-フルクトース(果糖)

D-フルクトースは、ヘキソース(六炭糖)で、ケトースになります。(ケトヘキソース)

(2)二糖類

二糖類は、単糖2分子が結合(グリコシド結合)したものです。
マルトース、ラクトース、スクロースがよく知られた二糖類の代表例といえます。


例① マルトース(麦芽糖)

マルトース(麦芽糖)とは、グルコースが2分子グリコシド結合したものです。

マルトース(麦芽糖)

例② ラクトース(乳糖)

ラクトース(乳糖)とは、ガラクトースとグルコースが結合した糖で、牛乳などに含まれている糖です。

ラクトース(乳糖)

例③ スクロース(ショ糖)

「スクロース」(ショ糖)とは、グルコースとフルクトースが結合した糖で、砂糖の主成分です。

(3)多糖類

単糖が通常10以上結合したものを多糖類といいます。

代表的なものとしては、セルロースデンプングリコーゲンシクロデキストリンなどがありますが、特許や文献によく出てくる多糖類をいくつかピックアップしてみます。

ムコ多糖類

アミノ糖を構成成分とする動物の複合多糖で、粘性のある物質です。グルコサミノグリカンとも呼ばれています。ムコ多糖類には以下のようなものがあります。

  • コンドロイチン硫酸:アミノ糖であるD-ガラクトサミンとD-グルクロン酸を構成成分とする複合多糖で、N-アセチル-D-ガラクトサミンのいろいろな位置に硫酸基が結合したグルコサミノグリカンです。D-ガラクトサミンが構成成分であることから「ガラクトサミノグリカン」とも呼ばれています。
  • ヒアルロン酸:N-アセチルグルコサミンとD-グルクロン酸を構成単位とする筋肉や動物組織に広く存在します(ニワトリのトサカが有名です)。医薬品として、変形性膝関節症、関節リウマチにおける膝関節痛などに用いられています。
  • キチン:甲殻類や昆虫の表皮などに多く存在するもので、N-アセチル-D-グルコサミンが直線状に結合したムコ多糖類の一種です。キチンの脱アセチル化物をキトサンといいます。キトサンは凝集剤として利用されています。

その他、ヘパリン、ケラタン硫酸等々があります。

セルロース類

植物の構造を保持する繊維状物質で、多数のβ-グルコースが直線状に結合したものです。セルロースの誘導体として、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース等々が医薬品の製剤添加物として用いられています。

ちなみに、デンプンはα-グルコースが重合したものです。

その他の多糖類

その他、ペクチンアラビアゴム寒天アルギン酸グリコーゲンデキストラン等が挙げられます。

3. 糖のDL表記

糖には、「D-」、「L-」が表示されていることがありますが、天然に存在するほとんどの単糖は、カルボニル基から最も遠くにあるキラル中心の炭素原子(図の5の炭素)がD-グリセルアルデヒドと同じ立体配置であることから「D-」がつけられました。Fisher投影図では、図の5の炭素につく水酸基は右側に表記されます。
この位置の立体配置が左側の場合は、「L-」となります。

D-グルコース

4. 糖の化学構造表記

上記でも糖の化学構造式を示していますが、併記しているものもあるとおり、糖の化学構造式はいくつかの表記方法があります。下記に代表的な表記方法を記載します。

3種のグルコース

炭素数5~6個の単糖類は鎖状構造と環状構造が平衡状態で存在しており、例えばD-グルコースは水溶液中では六員環(ピラノース)として大部分が存在しています。

環状構造を表現するにはFisher投影式では適当でないため、Haworthの式が用いられることが多いようです。

5.J-PlatPatで「糖」について簡易的な検索をしてみると?

(1)特許・文献に出現する関連用語

上記で解説した用語以外に特許や文献に多く出現する用語を挙げてみることにします。

 

  • オリゴ糖:単糖を通常2~10結合した糖類で、少糖類とも呼ばれます。ラフィノース、マルトトリオース、シクロデキストリンなどがあります。
  • デオキシ糖:水酸基(OH)が水素に換わった糖をいいます。天然にも多くみられ、D-デオキシリボース、L-ラムノース、D-ジギタロースなどがあります。
  • 糖アルコール:アルドースやケト―スのカルボニルが還元された糖です。エリトリトール、ラクチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどがあります。
  • フラノース:五員環構造で存在する単糖類をいいます。
  • ピラノース:六員環構造で存在する単糖類をいいます。
  • ヘミアセタール:単糖分子は分子中にカルボニル基と水酸基があり、分子内で反応して環状のヘミアセタールが形成されます。フラノース、ピラノースがその例になます。ケトンと水酸基(アルコール)から生成するのはヘミケタールといいます。

なお、糖にも立体化学に関する用語、例えば、アノマー、エピマー、ジアステレオマーなどが頻繁に特許等にも出てきますが、立体化学に関する用語は別途コラムを参照いただけますようお願いいたします。

(2) Fタームでの検索

糖に関するFタームは多く存在しますが、4C057(糖類化合物)、4C090(多糖類及びその誘導体)あたりがメインとなりそうです。
一部抜粋し、ヒット件数を見てみました。

※検索結果(2023.11.16時点)

(4C057BB00 C,H,Oのみからなる糖)
4C057BB02 ・単糖類 ⇒19180
4C057BB03 ・二糖類 ⇒4612
4C057BB04 ・オリゴ糖 ⇒3039
4C057BB05 ・デオキシ糖 ⇒7442

(4C090BA00 慣用名又は種類) ※ドット(階層)について、途中の表示は省略します。
4C090BA09 ・・・・・サイクロデキストリン ⇒1063
4C090BA26 ・・・・・・酢酸セルロース ⇒753
4C090BA27 ・・・・・セルロース無機酸エステル ⇒441
4C090BA40 ・・・・カラギーナン⼜は誘導体 ⇒228
4C090BA47 ・・・キトサン⼜は誘導体 ⇒973
4C090BA66 ・・・・コンドロイチン(硫酸) ⇒409
4C090BA67 ・・・・ヒアルロン酸⼜は誘導体 ⇒740

(3) FIでの検索

C08Bが、多糖類;その誘導体に関する分類になっています。セルロース、でんぷん、アミロース等のFIがありますが、それぞれの分野(ex.食品分野)でも糖に関するFIがあることもありますので確認しておくことが必要になります。

6.サーチャーとして知っておきたいこと

サーチャーとしては、上記「糖の化学構造表記」で取り上げたとおり、特許や文献では化学構造の表記方法がまちまちですので、調査対象の糖と同じ構造であるか否かに注意が必要になります。Fisher投影式と環状表記ではどの水酸基とどの水酸基が対応するかは一見ではわかりづらいと思いますので、調査前に確認しておくことが重要と思われます。

また、今回はあまり触れませんでしたが、糖にも立体異性体が多く存在し、一か所水酸基の立体配座が異なっただけで、まったく別の糖になってしまい、活性や物性などにも大きく影響します。検索の際には、調査範囲外の糖が含まれないようにするなどノイズが少なくなるよう注意が必要です。

 

おわりに

糖は学問としては幅広くまた奥深い分野といえます。サーチャーとしては、基本的な知識は押さえておくべきですが、調査を重ねながら知識を増やしていければよいのではないかと思います。

本コラムで糖に少しでも馴染んでいただけると幸いです。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)

《参考文献》

  • 1)モリソン・ボイド第6版 東京化学同人
  • 2)資源天然物化学改訂版 共立出版
  • 3)スタンダード薬学シリーズ3 化学系薬学 Ⅱ 東京化学同人