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医薬品の製法特許に関する基礎知識と調査方法

医薬品の製法特許

今回は、医薬分野における製法特許について解説します。

一般的に、物質特許が満了となれば、物質特許に記載された方法などで製造できることになります。しかし、その物質特許とは別に、新たな製法や新たな中間体が特許として成立するケースもあるため、ジェネリック医薬品を開発する企業などは製法特許にも注意する必要があります。

1. 医薬品と製法特許

医薬品における製法特許は、医薬品またはその中間体の新しい製造方法に付与される特許をいいます。医薬品の開発段階や上市後においても、より効率的な合成方法が検討されることがあり、従前とは異なる工程に特徴(特許性)があれば、それぞれの工程で製法特許が取得できることになります。

製法特許の一例

特表平08-506596は「アジスロマイシンの中間物質」と称する中間体の物質特許および製法特許です。アジスロマイシンの中間物質をクレームし、この中間体を還元、N-メチル化することによってアジスロマイシンを製造する内容になっています。

アジスロマイシンの物質特許(1981年出願)、2水和物の物質特許(1988年出願)よりもさらに後の1994年(優先日1993年)に出願されている特許です。上市後も製法が研究されていることがわかります。

2. 医薬品メーカーにおける製法特許の重要性

製法特許は、物質特許や用途特許とは異なり、その特許の存在自体によってジェネリック医薬品の承認がされないということありません。しかし、ジェネリック医薬品が製法特許に抵触するとなると係争になり得るため、特許回避やその他の対策が必要になります。

一方、先発医薬品企業としては、製法特許は製品寿命を延ばせる可能性もあることから、ジェネリック対策として随時製法特許を出願しておくことが望ましいと考えられます。ただし、製法特許は、発明のカテゴリーとしては「方法」の発明になります。方法の発明の特許権の及ぶ範囲は「その方法を使用する行為、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申し出をする行為」ですので、特許の製造方法とは別の製造方法により製造された医薬品には及ばないということになります。

また、製法特許をもとに権利行使する場合には、「その方法により生産した」ことを特定できるかが重要なポイントになります。特許法には、製法特許の権利行使に関連する条文があり、例えば、生産方法の推定(特許法第104条)や具体的態様の明示義務(特許法第104条の2)、文書提出命令(特許法第105条)などがありますが、物質特許に比べて権利行使はやや難しい面があります。

とはいえ、他社に製法特許を取られてしまうリスクもありますし、製法特許の存在が他社への抑止力となるケースもあるので、権利化についてしっかりと検討することが重要です。一方で、他社が考え付かないような製造方法などは、特許出願するよりも、自社内でノウハウとして管理することで、競合他社への情報流出を防ぐ方が得策と考えられるケースもあり得ます。特許出願するかノウハウとするかは、状況によって慎重に判断する必要があります。

3.製法特許の調査について

(1)製法特許のデータベース検索

特許データベースを用いた検索としては、化合物名、医薬品名が多く用いられると思いますが、念のため商品名や開発番号などでも検索しておいた方が望ましいです。また、データベースによっては、InChI、InChIkeyやSMILESを使用することができますので、これらも併せて活用するとヒット率が上がります。

(2)製法特許の化学系データベース検索

化合物辞書データベースで得られた登録番号(CASレジストリ番号等)を化学文献データベースで検索、特許の情報があれば特許データベースで詳細を出力する方法も並行して行うと、より精度の高い調査を行うことができます。

(3)製法特許の中間体調査

製法特許調査で忘れてならないのは、中間体に関する調査です。頻度としては少ないかもしれませんが、中間体の特許に抵触すると、医薬品が製造できなくなるおそれもあるため、注意が必要です。中間体の特許は、ときに医薬品に関する記載がないこともありますので、医薬品分野に限定することなく調査することを検討しましょう。(1)~(3)の調査には、化学構造検索を行うのが理想です。

(4)特許延長についての調査・確認

製法特許も延長対象になることから、上記の延長特許からの調査で見つかることもあります。製法特許についても延長有無の調査は必須です。

ここでは延長についてJ-PlatPatでの調査例をご紹介します。(※以下、2024年7月時点における検索結果となります。)

例①:ラニナミビル製法特許の延長について確認

J-PlatPatの特許・実用新案検索で、、[文献種別]を[国内文献]のみとして、[検索項目]として[延長登録出願情報]を選択、[キーワード]に[ラニナミビル]を入力して検索してみますと、9件の特許がヒットします。

例えば、1件目の特開2013-144701は、「ノイラミン酸誘導体の製造方法」に関する特許です。「特開2013-144701」をクリックして[文献表示]させ、[延長出願]をクリックすると延長出願の概要が表示されます。この出願の場合は延長出願の隣に、[延長登録]の表示がありますので、ここをクリックすると延長された内容が表示されます。

ラニナミビル製法

この製法特許が「ラニナミビルオクタン酸エステル水和物」、「A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の予防に用いる場合・・」で「1年6月26日」の延長が認められたことがわかります。
なお、4件目の「特表2009-537199」は、「簡易吸入器」に関する特許が延長出願されていましたが、拒絶査定になっています。
このような情報から、ジェネリック医薬品の申請・上市の時期の判断材料とすることができます。

例②: アジスロマイシン水和物特許の延長について確認

冒頭にご紹介した特表平08-506596「アジスロマイシンの中間物質」も延長がされています。
同様にJ-PlatPatを用いて[アジスロマイシン]を入力して検索すると下記データが得られます。

アジスロマイシン水和物

この製法特許が「アジスロマイシン水和物」、「医薬品の製造原料」で「2年6月8日」の延長が認められていることがわかります。

 

この延長出願の調査は、調査対象である医薬品の製法特許の中でも重要な製法と考えられる特許を見出すことができる調査といえます。

5.特許調査は慎重に

製法特許の調査は、化学構造式や化学合成などで高度な専門知識が求められるケースも多いです。場合によっては、社内の研究者などの協力も得ながら、慎重に調査を進めるようにしましょう。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)