特許調査の専門家が教える検索キーワードの選び方【初心者向け】
1.はじめに
前回のコラムでは、特許分類の選び方についてお話ししました。
今回は、特許検索といった際に最初にイメージされるであろう「キーワード」の選定・使い方のコツについてご紹介します。
特許分類は有効な検索手段ですが、それだけでは十分とは言えません。適正なキーワードと組み合わせることで効率的かつ漏れの無い調査が可能となります。
2.特許調査におけるキーワード検索の特徴
前回の特許分類の説明において、キーワード検索では機械的に検索されるため、表記の少しの差異でヒットしなくなることを説明しました。
皆さんが良く使われるインターネット上でキーワード検索(Google、Bing等)では表記揺れ等も加味して検索されるようです。これらのアルゴリズムはGoogleやMicrosoftといった大企業の研究の成果であり、日々精度が上がっていると著者は感じております。
本題の特許調査についてお話しますが、以下の話は基本的にはJ-PlatPatや一般的な商用DBがベースとお考え下さい。なお、商用DBは有償だけあって概念検索や同義語辞書等の機能を備える場合がありますので、それらの機能についてはお使いのDBをご確認ください。
上記の通り、特許検索についてはキーワードの表記揺れは許容されません。また、同義語・類義語もそれぞれ検索する必要があります。
さらに特許検索における問題なのですが、特許明細書では普段は用いられることの少ない独特の表現が使われます。
それでは、これらについて簡単にお話していきます。
3.表記揺れについて
日本語は平仮名、片仮名、漢字を組み合わせて表記されます。それだけではなく、一部の単語(特に固有名詞)やその略称ではアルファベットも使用されます。そのため、同じ単語を表記するだけでも多くのパターンが存在します。ここでは筆者が検索用のキーワード群を検討する際によく注意している部分の一例を記載します。
①漢字・平仮名・片仮名での表記
②漢字の使い分け、旧字を含む異体字
③転音による清音濁音の変化
④特に片仮名での拗音や、「ヴ」の音
⑤長音記号
⑥活用の有る言葉の語尾変化
⑦送り仮名 等
ざっと思いつくだけでこれだけあります。
例えば「鉄製の鍋の蓋」について検索したいとします。
キーワードとしては「鉄」「鍋」「蓋」でしょうか。一般的な表記がほぼ決まっている単語なら難しくないのですが、「蓋」については「ふた」「フタ」と平仮名や片仮名の表記もよく用いられます。さらに「鍋の蓋」といった表記ではなく「鍋蓋」と表記されることもあります。漢字なら問題ないのですが、平仮名や片仮名は「鍋ぶた」と転音するため、「ふた」とだけ検索すると「鍋ぶた」がヒットしなくなります。
「鉄」についてですが、「鐵」という旧字を使われることも考えられます。現在では一般的な鉄製品に対して「鐵」の語が使われることは少ないですが、異字の可能性は頭の片隅に入れておいたほうが良いでしょう。
話が少し脱線しますが、「鉄製の鍋の蓋」は「金属製の調理器具の蓋」に含まれますよね。特許の権利が「金属製の調理器具」の場合は「鉄製の鍋」も当然に権利範囲に入るわけで、特許侵害の予防を目的とする場合は調べたほうがより安全です。そういった上位概念をどこまで検討するか等は、実際の検索式の作成方法ということで別途ご説明したいと思います。
また、日本語では動詞・形容詞等は語尾変化をします。日本語検索では部分一致である場合が殆どですので、活用の有る語句を検索する場合は語尾を考慮してどこまでが必要な部分かを判断するといいでしょう。
活用する語句と組み合わせた複合名詞については、活用する部分を送り仮名なども含めてパターンを検討しましょう。
例:折目、折れ目、折り目・・等
次に、主にカタカナ語と言われる外国語由来のキーワードでよくある表現の差異です。例を見ていただければ一目瞭然と思います。
- バイオリンとヴァイオリン
- プラスチックとプラスティック
- ダイヤモンドとダイアモンド
- エンターテイメントとエンターテインメント
- トレーとトレイ
- コンピュータとコンピューター
最後の例のように、主に技術タームでは最後の長音記号が書かれないことが少なくありません。最後の長音記号は省いて検索したほうが安全でしょう。
例:サーバーで検索⇒サーバはヒットしないが、サーバで検索すればサーバもサーバーもヒットします。
最後に表記揺れについては、必ずしも正しいキーワードだけで十分ではないということも知っておいた方が良いでしょう。
例えば、コミュニケーション、シミュレーションと言った単語はコミニュケーション、シュミレーションと誤記されることが少なくありません。J-PlatPatで全文検索しますとコミニュケーションは約2,000件、シュミレーションは約18,000件もヒットします(2023年3月現在)。
その他、正式には使い分けがあっても、混同されて使用される単語もあります。有名どころですと「作成」と「作製」等があります。これらは、日頃からしっかりと使い分けしていない方もいるかと思います。特許明細書でも同様ですのでご注意ください。
4. 同義語・類義語について
漏れの無い特許調査を行うためには同義語・類義語の把握も重要です。同じ内容を指す表現は色々とありますので、明細書がどの表現で書かれるかはわからないためです。ここでは一般的な同義語・類義語の調べ方について紹介します。
①同義語・類義語辞典を用いる
同義語を探すための基本として、まずは同義語・類義語辞典を用いることが挙げられます。WEB上には無償で使用可能な同義語・類義語辞典も多いですので、それらのサイトで検索するのが手早いです。
②特許公報を何件か確認する
調査する対象は特許公報なのですから、実際に公報を読んで使われている単語を把握するのは当然に有効な手段です。
前回のお話の逆になりますが、例えば適した特許分類があるなら、その特許分類が振られている公報ではどういったキーワードが使われているのかを確認します。
特許分類だけでは範囲が広く、件数が多すぎるなどといった場合は「発明の名称」「要約」だけを検索範囲にキーワード検索を行うのも有効です。
この際のポイントとして、できる限り別の出願人の公報を確認するべきです。次のお話と関係してきますが、出願人ごとによく使う表現は異なってきます。事前に競業他社がわかっているなら、出願人で限定すれば効率よく同義語を集められる場合もあります。
③調査対象に関する資料の確認
商品として販売されている調査対象の場合、販売企業のHPに技術説明やカタログが記載されているケースは多いです。説明資料内で使われているキーワードを確認すればその企業がどのような表現を使っているかが把握できます。この場合も複数の企業を確認することが重要です。
その他、ウィキペディア等を用いて同義語・別表現を探すことも有効です。例えば、「●●とは、〇〇〇を◇◇するための装置であり、■■■、▲▲▲などとも表現される」といった説明がされていることは少なくありません。
■■■、▲▲▲のような同義語について記載してあれば儲けものですし、「〇〇〇 AND◇◇」といった検索をしてもよいでしょう。
化学物質の場合も無償で使用可能なデータベースもありますので、慣用名やIUPAC命名等を把握できます。当然企業のHPにおける製品名も有効なデータです。
余談になりますが化学物質の名前(特に有機化合物)を検索する際にどの部分で検索するかは慣れが必要です。物質名を全て検索で問題ないこともありますが、有機化合物ですと官能基の位置や立体配置を表すために数字やアルファベットが付き、それらをつなぐためにハイフンも多用されます。これらは表記揺れにつながりますので、化合物名の特徴的な部分をいくつかAND検索するのも有効です。
④和英・英和辞書の活用
筆者は、同義語を探すために和英・英和辞書も活用しています。
技術用語は対応する日本語があってもカタカナ語で表現する場合も少なくありません。その場合は日本語表現とカタカナ語を両方とも把握する必要があります。カタカナ語でしたら、原単語を和訳すれば同義語として使用できます。
WEB上の辞書では複数の候補が表示されることが多いですので、その中で適した表現を選んで使えばよいでしょう。複数の候補が表示されることを活かして、筆者は日⇒英⇒日と再翻訳することで同義語を探すこともあります。キーワード候補が増えますし、再翻訳することで候補の単語の正確なニュアンスをとらえることも可能です。これは外国特許を英語で検索する際のキーワード翻訳の際にも適した単語を選定するのに有効と考えています。
5. 特許特有の表現について
特許公報は読みづらいとよく言われますが、その原因の一つに特許独特の表現があります。
特許の権利範囲をより広く確保するためであったり、文章で発明内容を表現するための都合であったりします。特に、特許請求の範囲(クレーム)においては、普段使わないような独特の表現が用いられることが少なくありません。傾向としてできる限り平易な表現を用いるようにはなってきていますが、いまだに慣習として特有の表現が使われているケースも多く見受けられます。
例えば「延在」「配設」「枢着」といったような、特許明細書でしか見かけないような単語も使われるほか、「回動」「係止」といった日常ではあまり使われない用語も多用されます。
前者は辞書・辞典に載っていない場合もあり、このような単語については慣れ(経験)が必要な部分です。 特許技術用語集のような専門書籍の他に、特許事務所等がある程度の用語集や解説を公開している場合がありますので、それらが参考になると思います。
実際に検索する際に「〇〇に設置される」「〇〇のような動作をする」といった内容の場合は「〇設」「〇在」「〇動」等といった表現を適当に作ってみて、公報で実際に使われる例があるのかを見てみるといいでしょう。J-PlatPatなどで検索して、それなりの件数がヒットするなら、検索用のキーワード候補としたほうが漏れの無い調査に繋がると思います。
6. おわりに
以上、特許調査における検索用キーワードの検討についてお話させていただきました。
特許検索では適切な検索キーワードを準備することが重要です。
今回は、キーワード候補を増やす方向を主にお話ししましたが、やみくもに増やせばいいというわけではありません。検索範囲が広くなりすぎると、ノイズが増えたり、その後の調査(スクリーニングなど)に多くの時間がかかることになります。もちろんキーワードが不足している場合は、検索漏れが発生する可能性が高くなりますので、どの程度のキーワードを用いるのが適正なのか、実際に検索をしながら調整していくのが一番と考えます。
ここまでに特許分類とキーワードについてお話してきましたが、実際にはそれらを組み合わせて検索式を作成していきます。
表記揺れのお話で少しお話しした上位概念の検討なども含め、調査目的に合致した検索式作成が必要です。この辺りはサーチャーごとの特色・好みなどもあるとは思いますが、次の機会に筆者の考え方をご紹介したいと思います。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・I)