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水責め、あるいは今日も明日も晴れ

水責め、あるいは今日も明日も晴れ

40年前、私が初めてアメリカ合衆国に足を踏み入れたのは、テキサス州のはずれにあるエルパソ(El Paso)という町であった。国境の河リオ・グランデ(Rio Grande;日本語に訳せば「大川」、メキシコではRio Bravoと呼ばれている)の南側にあるシウダド・フアーレス(Ciudad Juarez)から市バスに乗り、国境の橋の真ん中にあるアメリカ税関でぎゅうぎゅう痛めつけられた後、ようやくたどり着いたのが(税関を出た後、橋の半分は歩いて渡った)エルパソである。西部劇でおなじみの町の名前で嬉しかったが、町のことを語るのがここでの本題ではない。

どうやら安ホテルに転がり込んで、地元の新聞を開いて驚いた。天気予報欄に「今日も明日も晴れ、連続晴れ日はこれで600何十日」とか書かれていた。雨がまったく降らない土地だったのだ。

本日、4月6日、国連のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)から本年2回目の報告書が発表されることになっている。今回のメインテーマは水不足(water scarcity)らしい。なんでも、赤道を真ん中にしての熱帯地方の上下に広がる亜熱帯地域に降る雨が、どんどん減っているらしい。米国の南西部(メキシコの北西部)、冒頭の町エルパソのあるテキサス西部からアリゾナ、ニューメキシコあたりは、既に7年も旱魃(かんばつ)が続いており、これが地球温暖化の影響のはしりであるとのことだ。

反対に、その上にある温帯地方(日本はここにある)の降雨量は増えるらしい。人間社会の格差だけでなく、自然においても、貧しいものはますます貧しくなり、金持ちはますます金持ちになるという法則が適用されるようだ。
It is a situation of the poor getting poorer and the rich getting richer when it comes to rainfall. (Washington Post)

このように地球規模で雨の降り方が変るだけでなく、ヒマラヤやアンデスの氷河が急速に溶けているから大河の流量が減るという、水に関してはダブルパンチを食らう地域が広がる。また、米国南西部を流れるコロラド河などに水を供給しているロッキー山脈の積雪も、まい冬どんどん少なくなっているとのことだ。積雪も自然の貯水槽だから、山に雪がなければ夏の川は涸れてしまう。

ということで、IPCC報告では、近い将来、10億から30億の人が深刻な水不足に悩まされると書かれているらしい。これは、まさに半端な数ではない。

前に、日本は、環境難民の大規模な受け入れ準備を始めなければならない、と書いたことがあるが、どうやら本当にそうなりそうである。水の豊かな神州日本に大勢逃げ込んで来ると覚悟しておいた方がよい。

地球温暖化の結果として生じた天変地異(Climate Change)のもっとも大きい厄災は、この、水が不足する、ということにまず集中的に現れることになりそうだ。水が無ければ、人間も動物も作物も生きていけない。住み慣れた土地を離れて、水があるところへ移動していくしかない。

日本列島は何人受け入れることができるのだろうか。

(07.04.06 篠原泰正)